第43話 ランドスケープ(1)
ヘンダーソンは、軍事衛星アルテミスに帰還後、間をおかず軍事統括ウッドランド大将のオフィスに来ていた。
「ヘンダーソン中将、報告書は読んだ。小惑星帯に集落を築いていた謎の物体は、極めて好戦的で話し合う余地がなかったと言うのだな。
その上、航宙戦闘機部隊への攻撃を受け、それを守ろうとして更に艦隊まで攻撃を受けた。だから仕方なく集落を破壊したという事か」
「はっ、仕方有りませんでした。そうしなければ、もっと艦隊の被害は拡大したと考えます」
「破壊しないまでも攻撃を仕掛け、攻撃力が弱まった段階で距離を置くという手は無かったのかね」
「あのままでは、謎の物体の光る攻撃に対処できないまま、消滅する艦を増やすだけだったと考えます」
ウッドランドは、いずれ招聘されるフレイシア星系評議会での質問を想定してヘンダーソンと打合せをしていた。
「いずれにしろ、あの小惑星帯をどうするかは、星系評議会が決める。もし再調査と言う事になれば厄介だな」
その言葉にヘンダーソンは、
「あれだけやってしまった以上、謎の物体の対応も和平という考えにはならないだろうと思います。そもそも謎の物体が動く仕組みも生命体も発見されていませんが」
「生命体・・」
ヘンダーソンの言葉にウッドランドは、眉間に皺を寄せた。
……………………。
「ウッドランド提督、ヘンダーソン提督」
星系評議会代表ヤン・マクリーンは、嬉しそうな顔をして握手を求めた。アイゼル議員他、主だった評議会委員が出席している。
「お二人に今回来て頂いたのは、小惑星帯に存在していた謎の物体と二連星の件に関してです」
一度言葉を切ると
「星系評議会としては、第二艦隊の戦闘、つまり相手が全く分からないままに戦闘を行い、小惑星帯の一部を破壊した事を危惧しています。
つまり、あれがどこか他の星系の実験施設という可能性が有ります。もしくは新たな生命体か。
いずれにしろそれをはっきりしない事には、対応のしようがないと考えています。もし他の星系の実験施設で有れば、それなりの対応が必要になります」
評議会代表は、一度言葉を切るとウッドランドとヘンダーソンの顔を見て
「もう一度行って頂きたい。目的は謎の物体の正体とそれを操る星系を調査する事です」
ウッドランドは
「謎の物体を操る者が人間でなかったら如何するつもりですか。会話の方法さえ見つからないのです。
その上、いきなり攻撃を仕掛けてくる奴らです。正体を掴めといっても無理が有ると思います」
評議委員の一人が
「その方法は君たちに任せる。その為に君達がいるんだろう」
言葉の主を見て眉間に皺を寄せて睨むと
「マクガイヤー委員。あなたも一緒に行けば良いのでは。如何ですか。そうすれば、第二艦隊の大変さが分かるというものです」
「何だと」
アイエン議員の言葉に顔を真っ赤にして大きな声を出すと
「ヘンダーソン提督、今回の調査では、例の双子もけがをしたと聞いています。すぐにとは言いません。まずは準備にかかる時間を教えてください」
「代表、解りました」
その後、会議は難航した。結局、ウッドランドとヘンダーソンが星系評議会ビルを出たのは、三時間後の一七時過ぎであった。
ウッドランドと分かれたヘンダーソンは、武官にアルテミスへ戻るというとエアカーに乗り込んだ。
「何を考えているんだ。評議会は」
納得いかないままにヘンダーソンは、エアカーの窓の外に映る景色を見ていた。
……………………。
「カレン、どう左大腿部の調子は」
「うん、問題無い。でもまだ本調子じゃない感じ」
官舎の部屋で、カレンの左足を見ながら言うと
「じゃあ、まだ休暇も有るし、お母さんと会う」
「えっ、ランクルトへ降りるの。行きたいけど、私達勝手に動けないし。ちょっと大変」
「そうか。そう言えばあれから久山さんと会っていない。どうしているんだろう。連絡を寄越したけど行ってもいなかったし」
「うん、確かに最近は基地の衛生室も久山さんじゃないよね」
「もし、何か急ぎでも有れば、また連絡してくるよ」
「そうね」
二人がそんな会話をしている頃、久山と小郡は航宙機開発センターの極秘中の極秘と言われるシークレットスポットにいた。
数人の研究者と共に縦横五メートルはあるスクリーンパネルを見ていた。右のスクリーンに映る縦のバーと左のスクリーンに映る縦のバーが上下に激しく動いている。そして一段高いスクリーンに波長の様な映像が何本も左から右へと流れていた。
「信じられません。あの子たちの体から出ている波長は、我々には無いものです。意識的に出しているようです」
「なんだこれは」
「どうも言語中枢から発信されている波長と思考中枢から出ているものが有ります。前者は、まるで会話しているようにお互いが反応していますが、後者は全く解りません。何か同期しているように見えるのですが、それがなにか解りません」
「意味が解らない」
「前者は脳波だけで会話しているという事です。それも距離を選びません。波長と言うより量子の様なものです。後者は、全く不明です」
「何だと」
「センター長こちらを見て下さい。これはあの子たちの体内蘇生のデータです。信じられません。細胞が再生していきます」
小郡は、カレンが基地内の病院施設にいる間、二人の体から出る全てのデータと体内のデータを収集していた。もちろん二人には言わずに。
あの二人は、我々と同じ人間なんだろうか。あの運動能力。パイロットセンス。そして回復能力。まさか蘇生能力まで有るとは。
全く常人とはかけ離れている。一〇才の時から星系軍の完全監視下に置いていたが、このようなデータとは思ってもみなかった。
スクリーンに映し出されたデータを見ながら
「このデータを元に彼らの電子クローンを作りアトラスに載せる。そうすれば、完全な自律航宙戦闘機部隊が完成する。それも常人を超えた戦闘力を発揮してくれるだろう。これは、我フレイシア星系の為に絶対成功させなければならないプロジェクトだ」
そう言って、研究者たちの顔を見た。全員が期待と希望にあふれた目をしている。全員がはっきりとした声で「はい」と言うと自分の前にあるスクリーンに向かった。
……………………。
『アッテンボロー大佐に呼ばれたけど何だろう』
『解らない。でも悪い事ではなさそうな感じだったけど』
『カレンが言うから間違いないだろうけど』
基地内の通路を歩きながら慎重一七八センチのとても可愛い二人が歩いている。顔も髪型も同じ。
手も足もそっくりの動き。違うのはカレンがスカートでミコトがスラックスと言うだけだ。反対側から来る士官や兵が、見ない様にして二人を見ている。尊敬と興味のまなざしで。
二人は、アッテンボローのオフィスのドアの右にあるパネルに自分のIDを近づけるとドアが開いた。
中に入り敬礼するとアッテンボローも答礼した。手を降ろして
「休暇中だというのに来てもらって申し訳ない。早くこれを二人に渡したくてな」
自分の前の机の上に有るケースを一つ取るとふたを開けた。
「大尉の徽章だ。フレイシア航宙軍人事部から届いた。貰っておけ」
そう言って、椅子を立つとカレンとミコトの前に来てケースを二人に渡した。
「大佐。私たちはこれを頂くほどの成果を上げていません。それどころか、敵の攻撃を受け仲間に迷惑を掛けました」
アッテンボローは、軽く笑うと
「いつもながらだな、お前たちは。お前たちの活躍のおかげで主要集落を発見できた。もし、あれを残しておけば、今後ともあそこのそばを通る艦は、攻撃を受けたかもしれない。
それを今後は防ぐ事が出来る。十分昇進に値する成果だ。航宙軍人事部は同情や人情で昇進はさせない。フレイシア航宙軍は甘くない」
少し真面目な顔をして言うと
「そう言う訳だ。お前達は、正しく評価されている。ただ昇進に付き物だが、お前たちは、今まで無人アトラス一個中隊二四機を統率したが、これからは、それぞれに一個中隊二四機を統率してもらう。
今回の件で無人機アトラスの重要性が十分解ったらしい。これだけでもすごい成果だ。貰っておけ」
そう言ってケースをそれぞれの手に渡した。
アッテンボローの前で胸にある徽章を取りかえるとアッテンボローは敬礼をして
「用はこれだけだ。もう帰ってよろしい。カレン大尉、ミコト大尉」
二人は、きっちりと敬礼すると部屋を出て行った。その後ろ姿を見ながら
「二一才の大尉か。俺は航宙軍に入って五年も必要だったぞ」
と独り言を行って微笑んだ。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
ここは面白くないとか、ここはこうした方が良いとかのご指摘も待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます