第35話 ファーストミッション(6)
エレベータまでは、自走通路で一〇〇メートルはある。
『うまく話しているかな』
『さあ』
他の人には、ただ黙っているだけに見える二人。幼い時にふとしたことがきっかけで口を動かさなくても意思を通じることを知った。
もちろん他の人、親にも話していない。距離も場所も選ばない不思議な能力だ。故にアトラスで航宙している時でも目の前にいるように意志が疎通できる。
やがて、エレベータの前に来ると二人は、後ろを振向いた。
『あーあ、黙ったままだよ』
『仕方ないよ』
四人がエレベータに乗るとミコトは五階のボタンを押した。スーッと上がるとドアが開いた。
出て右に行けば自分達尉官クラスの部屋。左に行けば食堂になっている。
一〇メートルほど行って左に入口がる。ちょうど食事時間もあってか、結構テーブルが埋まっていた。
ミコトは食堂の中をぐるりと見ると右奥の方、食事を受け取るカウンタと反対側に四人がけの開いているテーブルを見つけた。
「あそこ開いている」
そう言うとカウンタの方へ向った。
食事は、いつも三パターンくらいしかない。佐官以上特に将官クラスともなると結構選べるらしいと聞いているが、自分達のレベルだと人数も多い分、パターン化しないと航宙中の物資が合理化できない。
それでもボリュームもあれば、そんなに悪い味でもない。
飲み物はドリンクサーバからであれば無料だが、カウンタからちょっと上のレベルのワインでも頼もうとすると有料になる。
僕達は、同じものをトレイに乗せると大好きなスカッシュをカウンタから取ってテーブルへ向った。
「あの二人。羨ましいな」
いきなり言うサキ
「えっ」
とレイが言うと
「なんか、何も言わなくても、ほんと意思が合うというか」
うまく言えないサキに
「だって二人で一人だから、僕たちには分らないよ」
僕たちと自然と出てきたレイの言葉にサキは、レイの目を見ると
「そうね。私たちには分らないわね」
あえて私たちという言葉を使った。
「レイ、サキ。私たちは先に部屋に戻るわね」
僕達は、二人だけになるように食事が済むと少しの間、レイとサキ話した後、食堂を出た。
レイは、二人だけになると言葉が重くなった。サキの目を見て言葉が出ないのだ。僕達が座っていた時は、言葉の不足、雰囲気をカバーしていたのだが。
「レイ」
サキの言葉にレイは、瞳で答えると
「リラクゼーションルームに行かない」
言葉で表すことなく頷くと席を立った。
食堂を出て、エレベータで一つ上に行く。エレベータを降りて左に行き、五〇メートルほど行って左に折れると一〇メートル程行ったところにリラクゼーションルームはある。
三段ほどの階段を降りると右手方向に歩いた。五〇メートル程の壁に擬似的に外宇宙の風景が映っている。もちろんに人間の目では見えない宇宙空間をアルテミッツの高性能レーダーで捉えた波長を3Dスペクトルスコープビジョンに映し出すと同じ様に壁に映す出している。
レイは右手奥のソファに座るとサキも同じ様に座った。会話の無い時間が続いた。
レイは、顔は動かさずに手だけサキの手のひらに動かすと、一瞬どきっとした動きをした後、レイの重ねる手をそのまま受け入れた。
そのままでいるとゆっくりとサキは、自分の頭をレイの肩に置いて来た。なにも言葉はない。
レイは、そのままにさせているとサキが顔を上げてレイの顔を見た。レイがサキの動きに目を動かすとサキは目をつむった。
レイは、ゆっくりと顔を近づけるとサキの唇に自分の唇を触れさした。そのままずーっと時間が経つと、やがて入口の方から音がしたのでサキは、レイから体を離した。
少しの間一緒に座っていた後、レイは
「サキ、戻ろうか」
サキは、言葉を出さずに頷くとそのまま立った。
「うまく行っているかな」
「分らないわ。でも二人でしか解決できない事だから」
航宙艦内では、尉官クラスは二人で一部屋だ。僕達は、航宙軍上層部の配慮で、二人で一つの部屋になっている。少し考えれば当然の事だが。
簡単なシャワールームとベッドが部屋の両脇にあって、ロッカーが二つあるだけの簡素な部屋だ。二人はパイロットスーツを脱ぐとロッカールームに入れてドライのボタンを押すとシャワールームに入った。
「ミコト、なんかおかしい」
「カレンも感じる」
「うん、直ぐに動けるようにしておいたほうがいいような感じ」
「そうだね」
シャワールームを出て髪の毛を素早く乾かすと体だけは休めるようにベッドに入った。
第二艦隊がフレイシア星系方向に航宙している時、一光時後方から着いてくる謎の物体があった。
哨戒艦は前方に展開している。レーダーでは掛からない。やがて第二艦隊が位相慣性航法に映るとその物体は小惑星帯の方向に戻って行った。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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