第22話 遠征訓練(6)
青白く輝くクレイシャスとクレイシア。この二つの星を包むように薄いガス状の膜見たいなものが覆っている。巨大なまゆの様だ。
青白く輝きながらこの二つの星の周りをお互いに引き付けながらそのエネルギーで回りの星系に少なからぬ影響を及ぼしている。
それが二連星からでている宇宙風だ。通常なら特に問題ないが、周期的に強いエネルギー波を出す。今回の遠征訓練は、その静かな時を選んで行われていた。
「ミコト、何か変」
「カレンも感じる」
「うん」
パイロットウエイティングルームで訓練の順番を待っている僕達は、いつもと違う何かを感じていた。
「航宙戦闘機部隊発進準備」
ルームの壁の上の方にあるランプがグリーンからレッドに変わるとパイロットたちは一斉にルームを飛び出し、航宙戦闘機射出庫に向って駆け出した。
「ミコト、行くよ」
「うん」
二人も他のパイロット同じ様に駆け出すと航宙戦闘機射出庫に向った。
射出庫に着くと既に整備員がアトラスⅣ型の前で二人を待っていた。
「ジュン、サリー、行くよ」
と言うと、パイロットシートの部分が青くチカチカと光った。
それを見た二人は、急いでパイロットシートに深く入ると整備員がパイロットスーツの二箇所のインジェクションにケーブルを接続するのを見届けてから自分のヘルメットのインジェクションにケーブルを接続した。
アトラスⅣ型の上部が閉まると機体横からカバーが上がってきて完全にアトラスⅣ型を包んだ。
「カレン准尉、発進シーケンス」
「ミコト准尉、発進シーケンス」
ハーモニーのように言うと可愛い声が
「エアロック解除、カレン准尉どうぞ」
「エアロック解除、ミコト准尉どうぞ」
矢継ぎ早に二人の専任射出管制官のオカダ准尉が指示するとアトラスⅣ型の射出ポートの底が横にスライドして開いた。
「カレン准尉、出ます。ジュン、サリー、ゴー」
「ミコト准尉、出ます。ジュン、サリー、ゴー」
六機のアトラスⅣ型は、航宙母艦ラインから強烈なダウンフォースと共に射出された。
「ミコト、デルタスリー」
カレンがそう言うとそれぞれのジュンとサリーが平行飛行し始め、僕達は二機の上方少し後方に遷移した。
他の機も二機一組で同期飛行をしている。ヘルメットの中に河井大尉の声が飛び込んできた。
「前方、航宙戦艦を撃つ。ツインズ左の艦、ジャックは中央の艦、ウオッカは右の艦、全機ゴーアヘッド」
「ラジャー」
「ラジャー」
ジャック中隊長マイケル・ヤング中尉とウオッカ中隊長カール・ゴードン中尉の声を耳にしながら僕達も応答した。
「ミコト」
それだけ言うと他のパイロットが乗機するアトラスⅢ型とはまったく違った速度で六機は突き進んだ。途中に浮遊する岩礁を六機がまるで一機のような動きで一瞬に越えている。
「信じられないことだが、目の前の事は事実だ。凄いものだ」
「私もさすがにここまでとは思ってみなかった」
「どうするんだ。この後は」
「上層部と話をするしかない。だがあの連中の頭では理解できないだろう。一線の我々がこれだ」
「しかし」
ルイス・アッテンボロー大佐とタカオ・オゴオリ大佐が司令フロアからスコープ・ビジョンに映る僕達のアトラスⅣ型の動きを見ながら話していた。
「右舷二次方向、エネルギー波極大。これは」
「どうした。航法管制」
「二連星のエネルギー波です」
「なんだと」
その瞬間、全長六〇〇メートルの航宙母艦ラインが大きく傾いた。
アッテンボローもオゴオリも立っていた為、強烈にコンソールパネルに叩きつけられた。
「ぐはっ」
アッテンボローは左胸をしたたかにコンソールに打ちつけた。オゴオリも同じ状況だ。
「カレン」
「ミコト」
一瞬の異常を感じると、六機は、信じられない速度で急上昇した。直後、右舷二時方向から強烈なエネルギー波が襲った。
僕達は自分達三機の底部をエネルギー波が来る方向に向けながら、底部前部と後部に二箇所付いている制御スラスタを全開にした。
「くっ」
それでも足元から強烈なエネルギー波を受けながら機が頭方向にものすごい速度で飛ばされた。
少しの間、そうしながらやがてエネルギー波が弱まると六機は徐々に右舷下方に展開しながらエネルギー波を受け流した。
突然、アガメムノン級航宙戦艦アルテミッツ、全長六〇〇メートル、全幅二〇〇メートル、全高一二〇メートルの巨体が傾いた。
「どうした」
自分の体が司令官シートのボディロックに強烈に食い込みなが、直前まで見ていたスコープ・ビジョンが傾いたよう映るとヘンダーソン中将は叫んだ。
「二連星からのエネルギー波です」
「何だと。どういうことだ」
「分りません。今の時期は落ち着いているはずですが」
「自艦の被害状況を確認しろと全艦長に通達しろ。外に出ている機の状況を直ぐに把握」
「はっ、直ぐに各艦長に自艦の被害状況の確認と報告を指示します。外に出ている機の状況の把握をします」
ヘンダーソン中将からの指示に主席参謀は復唱すると直ぐに目の前のスクリーンパネルに指示をうち込んだ。
「カレン、大丈夫か」
「ミコト、大丈夫。直ぐに機の態勢を衝撃波から流すようにしたのが良かったみたい。ミコトは」
「同じだ。ジュン、サリー、被害状況を報告」
「ジュン、被害なし」
「サリー、被害なし」
「了解」
二人はその報告を受けると
「カレン、ずいぶん飛ばされた。訓練予定宙域から二万キロは外れている」
「ミコト、仕方ない。とにかく直ぐに、連絡をとります」
カレンは飛ばされて少し衝撃を受けた体を意識で確認して、どこも痛みがないことが分るとヘルメットに内蔵されているコムに向って
「河井大尉、指示を」
「河井大尉」
「ミコト、河井大尉から返事がない。ラインと連絡を取る」
「ライン、こちらツインズ。指示を」
「ツインズ、被害状況を報告」
「大丈夫です。六機とも被害なし」
「えーっ。被害なし」
少し無言になると
「ツインズ、他のアトラスはひどい状況。今、救難隊が各方面に捜索に出ている」
少したった後、
「河井大尉と連絡が取れない」
ヘルメットの中に可愛い声が涙声で聞こえてくる。
「オカダ准尉、河井大尉のラインから発進した飛行方向をデータ送信してください」
カレンの言葉にえっと言うと
「時間がない。直ぐに」
ミコトが言うと分りましたお願いと言ってオカダ准尉は河井大尉の飛行経路を二人にデータ送信した。
「ミコト。受けた」
「うん」
「分るわよね」
「カレン、任せて」
「ジュン、サリー手伝って」
「はい」
「はい」
ミコトはジュンとサリーそして自機のアトラスⅣ型のコンピュータを利用してオカダ准尉から受けた河井大尉の機の飛行経路とエネルギー波が来た方向とのベクトル波を合成するとヘッドディスプレイに合成した映像を出した。
「カレン、こっち。行くよ」
「うん」
六機は左舷後方七時方向、上方三〇度に遷移すると最大速度で直進した。宙域は、エネルギー波で、デブリの飛散がひどくなっている。
僕達は、ヘッドディスプレイに映るベクトル方向に岩礁を回避しながらアトラスⅣ型の最大速度で航宙した。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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