第15話 宙域訓練(5)


レイの指定したレストランパープルレモン。


ここは、航宙軍航宙戦闘機部隊の行き付けの店でもあった。

軍事衛星アルテミスのA20アベニューをエアカーで第二幹線に入り二〇〇メートル位入った十字路を一〇メートル程歩いたところにある。


「青山達」


 僕達は自走エアカーのマグネットルートに足を挟まないように歩いているとレイが声を掛けた。


「レイ」

ミコトが返事をするとドアを開けながらサキが待っていた。


 ドアを開けて入ると左手に二〇人は座れるカウンターがある。少しだけ下がったフロアには、中心に七つのテーブルと壁を囲むようにやはり七つのテーブルが壁側のソファに沿って置いてあった。


「結構広いんだ」


 カレンは珍しいといった表情で見ていると、まだ一八時だというのに半分くらいのテーブルとカウンタが三分の一は埋まっていた。


僕達が中に入ると、店の中にいた人たちが一斉に二人の方に目を向けた。そしてコソコソと小声で何か話している。


「レイ、ここでないといけないのか」

「悪い。ここ行き付けなんで呼んだけど、まずかったかな」

僕達が困った顔をしていると


「青山ツインズ」

声の方に顔を向けると衛生担当官兼二人の世話役になった久山さんが立っている。


「あっ、久山さん」

既に日頃結構世話になっている久山さんにミコトが声を掛けると


「ここは大丈夫よ。みんな貴方たちを見ているけど、ここにいる人はほとんどが航宙戦闘機部隊の人間、それにほとんどがルイス・アッテンボロー大佐、そして河井大尉の部下よ」


 そう言って周りを見ると、確かに見覚えのある人達がロックグラスやワイングラスを持って微笑みながら航宙軍式敬礼をしていた。


僕達は恥ずかしそうに笑いながら敬礼すると久山さんが


「おしゃべりに来たんでしょ。太田君や安西さんと。たまには息を抜きなさい」

そう言って自分は、奥のテーブルへと行ってしまった。

僕達は場違いではないと分ると


「サキどこに座っているの」



奥のテーブルでその二人を見ながら久山は、膝に乗せたパッドに指を動かしていた。





「小郡センター長。アトラスⅣ型です」


 開発コードRC41正式名称フレイシア航宙軍航宙戦闘機アトラスⅣ型。形状は今までのアトラスと大きくは変わらないが、三機一編隊を基本とする。


 但しパイロットが乗機するのは一機だけだ。他の二機は、パイロットにシンクロして航宙する。


 さらに人工知能を装備し、パイロットの航宙の特徴や癖を吸収すると共に、万一パイロットが、自己航宙出来ないときは、自らパイロットの機をシンクロさせ航宙母艦迄連れ帰る機能を有している。


 装備は、移動式の口径一メートル荷電粒子砲を両舷に備え、推進力は、アトラスⅢ型の二〇%増になっている。


「出来たか」


小郡は、その機体を眺めると

「ラインへの輸送は、いつになる」

「はっ、後二週間でラウンチ出来ますが、ライン側の装備も改修しなければならないため、実際は、後一ヶ月は掛かると思います」


 そう言って工程表のパッドを渡した。小郡は、パッドを受け取るとラインの工程表をタップして更に詳細に見ると口元で笑った。


 そして近くにあるコミュニケーションポッド通称コムポッドをとるとアッテンボロー大佐を呼んだ。


「アッテンボロー大佐、どうだ、あの二人は」

「小郡か。あの二人は、シンクロ飛行で片方が暇そうにしている。驚くばかりだ」

「そうか、こちらはラインへの積み込みと準備であと一ヶ月近く掛かりそうだ。しかし呆れたな。シミュレーションもなしにこなすとは。どうだ、あの二人に休暇を取らせては。  

 もちろん、大切な二人だ。航宙軍完全監視をファーストパスという名目で与えればいい。久山も連れて行かせろ」


少し、黙ると


「それから、休暇中はシーズンランドへ行かせろ。あそこは我軍の保養所だ。監視の目が十分に行き届く。

 下手にランクルトで怪我されても困るからな。もちろん親の分も一緒だ」


それを聞いたアッテンボローは、呆れた声で

「休暇、まだ候補生だぞ。そんな規定、我軍にはないぞ」

「つまらない片意地張るな。ウッドランド大将には、俺から言っておく」

「ったく。まあいい。これ以上教練しても意味なさそうだからな」


二人の会話の内容は直ぐに二人に届けられた。


「カレン、もうこっちに上がってから五ヵ月が過ぎるね。久山さんの最初の話だと最初の三ヶ月の実地教練が終わった後、別の教練に入るように言われたけど、四ヶ月目からは交代でシンクロ航宙教練ばかりだ」


「でも、お陰で体の負担が半分で済むから助かるじゃない」

「うーん、そう言うことじゃ無くて」

「どう、たまには、私達からサキたちを誘って見る」

「良いね。そうしよう。でもいつにする」

「うーん、また考えよ」

ミコトが滑るような仕草でおどけるとカレンが笑った。





「カレン准尉、ミコト准尉。明日から二週間の休暇を与える。充分に休養を取って次の実機教練に備えるように」

河井大尉が微笑むと


「青山ツインズ、ゆっくり休んでこい。お前たちは期待以上の結果を残してくれた。二週間後を楽しみにしておきなさい」


河井大尉がパイロットウエイティングルームを出ると他のパイロットが寄ってきた。


「すごいじゃないか。候補生で休暇なんて聞いたことないぞ」

「当たり前じゃない。ギリギリでⅢ型に乗っている誰かとこの子達を比較するなんて無謀よ」

その言葉に回りのパイロットが笑いながら頷くと言われた男が


「お前だってこの子達との模擬戦で五分持たなかっただろう」

「ふん、貴方なんか三分だったじゃない」


二人のやり取りに、戻ってきた河井大尉が

「その辺にしておけ。二人が困った顔をいるぞ」


 パイロットウエイティングルームに戻ってきた河井の顔を見て安心したような顔になった二人に

「これが休暇許可証だ。フレイシア航宙軍人事部からの正式書類だ。そしてこれが軍事衛星アルテミスと首都星ランクルトとの入出パスだ」

二人にそれぞれのパッドを渡した。


 パッドに映し出されたマークを見ると、僕達は目を見開いて驚いた顔をして河井大尉の顔を見た。


「航宙軍からの二人への期待を込めたプレゼントだ。遠慮しないで取っておけ」

そう言って笑顔を見せた。


 ランクルトへのファーストクラスパスとシーズンランドへの一週間の宿泊チケットだ。それも五人分ある。二人は、申し訳なさそうな顔をしながら


「ありがとうございます」

と言って頭を下げた。


―――――


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

ここは面白くないとか、ここはこうした方が良いとかのご指摘も待っています。

宜しくお願いします。

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