終わりと始まり
後方から追いかけて来ていたクレアの艦が速度を落としたかと思えば、スピーカーのスイッチを入れたような音が聞こえる。そのまま何かを言い淀んだ後、暫くすると、まるで覚悟を決めたかのように話始めた。
『おいバレル……、…………ッ、き、今日のところは見逃してやる‼ だが次に地上で会ったとき、そのときがお前の最後だ‼ 覚えていやがれ‼』
「忘れるまでは覚えておく。クレア、気を付けて帰れよ」
『余計なお世話だ‼ このッ……アホー‼』
最後に悪態を付いた後、クレアたちの艦は、ゆっくりと舵を切って俺たちから離れてゆく。
「本当に、空気の読めない男」
「何がだよ?」
「あの言い方、一歩間違えれば一戦交えてもおかしくありませんでした。もっとスマートな方法は無かったのかと、そう言っているのですわ」
「結果オーライってやつだろ。ま、細かいことは気にするなって」
「はぁ。本当に貴方という人は」
『ああ、あの‼ クレアさんの艦が離れて行きましたけど、も、もう大丈夫なんですか⁉ 終わったんですよね⁉』
耳に付けたインカムから雫の声が聞こえてきた。その声はもういっぱいいっぱいといった様子で、顔は見えなくとも、今にも泣き出してしまいそうな姿が想像できる。
「ああ、終わったよ。これ以上のことなんて、もう何も起こりはしないさ。あとはゆっくり目的地まで座っていれば良い。良くやったな、雫」
『んわぁぁぁぁぁぁぁ‼』
「……それは、喜んでいるのか?」
「フッ……ア、アホ可愛いですわ」
そうとも。これ以上面倒なことが起こってたまるものか。いくら荒事に駆り出されたとはいえ、何事も無いならその方が良いに決まっている。さっきはシャロに注意こそしたが、誰かに見られている訳じゃないんだ。羽目を外さない程度には、楽しんだって構わないだろう。一仕事を終えた後には、労いってやつが必要で――。
などと、そう気の抜けきったことを考えていた次の瞬間。それは一瞬、ほんの僅かではあるが、まるで世界そのものが静止したかのような感覚だった。隣に立つシャロも同じことを感じ取ったらしく、強張った表情を浮かべて、ここよりも更に上空を睨みつけている。
シャロと同じ方へ視線を移すと、今いる場所よりも数百メートル上、茜色に染まりつつある空が、色を失って灰色に変わってゆく。続いて、灰色になったその場所にひびが入り、ガラス窓のように爆ぜて砕け散ると、空の奥に巨大な空洞が出来上がった。空に開いた穴の奥。そこで巨大な何かがのたうち回り、割れた空の淵をなぞるように
「……おい、嘘、だろ……あれは……」
「バレル、私は操縦室に戻りますが……、良いのですね……?」
「……あぁ、できる限りのことをやってくれ。俺は、ここに残る」
「…………、ご無事で……」
『あの、おふた・・も! レーダー・・・しく・・これ、何・・・す・・・』
「すぐにシャロがそっちへ行く‼ 良いか雫、外を見るんじゃないぞ‼」
『・・・⁉ ・・、・・・・ッ⁉』
「あぁ、クソッ‼」
最早インカムからはノイズ音しか聞こえてはこなかった。続いてあちこちから機械類の発する異音と共に、艦が異様な振動を始める。話には聞いていたが、僅か一瞬でここまで影響が出るというのか。
今目の前で起こっているのは、局所的なロストグラウンド化現象。それは、とあるアンヴァラスが出現する際の兆候で、絶対に起こる筈の無い、起こってはいけないことだった。
こんな馬鹿げたことができるのは、現在世界で三体のみその存在が確認されている、最悪にして災厄、最上位の侵略者。加えて上空でその姿を現すというならば、それは一体に絞られる。アースイーター級アンヴァラス、“
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