(84)亡くした友

~ラーグ目線~



「…………」

「…………」



 ノーヴァがセレスに引きずられていった後、厨房の中はシンッと静まっていた。


 俺は、あまり話すほうではない。

 どうやら、それはチビも同じようだった。

 …………チビからの視線を感じること以外は。


 視線からして、何か興味を持っているように思える。

 だが、なにに興味を持っているんだ?


 チビの視線が刺さるところは、俺の手の甲…………鱗か?



「…………気になるんなら触るか?」

「え、いいんですか?」

「…………気にしない」



 チビには、鱗がない。

 獣人としての、尻尾も耳もない。


 どういう種族なのかはわからない。

 だから、ジョゼフ__親父も体調面は警戒していた。


 ただ、自分にはないものに興味があるのかもしれない。


 そう思ったが、チビの懐かしいものを見るような表情を見て違うと思った。



「楽しそうだな」

「あ……すみません」

「いや…………なぜ楽しそうなんだ」

「…………思い出してしまって」



 『思い出す』?


 なんで、過去形なんだ?



「思い出す?」

「はい」



 そう聞き返せば、チビは何かを考えこんでいた。


 すぐには言いにくいことなのか?



「その…………友人が触らせてくれたんです」

「…………そうか」



 チビの言った言葉に、俺はおもわず黙ってしまった。


 友人が触らせてくれた?

 ということは、その友人って言うのはリザードマンや竜人のように鱗がある種族なのだろう。


 だが、友人ならなぜ過去形なんだ?


 何より、チビの表情は寂しさと悲しみと後悔。

 何故、後悔の表情を浮かべているんだ?


 …………まさか。


 チビの友人は、もう死んでいて一生会えないのか?

 その友人が死んだ理由に何か関係があって、それでチビは後悔しているのか?



「…………触りたくなったら、いつでも触れ。お前が、それで安心するのなら」

「……!?…………ありがとうございます」



 なあ、チビ。


 お前が後悔する理由はわからねぇが、ずっと後悔するのは心が疲れちまうぞ。

 後悔するんなら、誰かにそのこと言って叱ってもらうなりしてみろ。




 そうすれば、かつての俺のように少しは楽になれるぞ。

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