野外活動

みずき

路地裏

 大学1年の春。サークルに加入した海美は連日連夜先輩たちに連れられて居酒屋に連行された。連行されたといっても本人はノリノリで参加していたため「連行されるのを待っていた」と表現するのが正しい。まだ未成年だった海美はアルコールは頼まず、メロンソーダやコーラなどのノンアルコールドリンクを喉に流し込むしかなかったが、酒の力で狂喜乱舞していく先輩たちの姿を見るとなんだか自分もお酒を飲んだような感覚に陥っていった。

 そんなある日、海美にとって大きな事件が起きた。居酒屋のトイレで先輩が嘔吐したのだ。先輩が嘔吐したこと自体が問題ではない。トイレが使えなくなったのだった。個人経営の小さな居酒屋だ。男女兼用一個のトイレしかなかった。先輩の嗚咽と共に海美の貯水タンクは頂点に到達しようとしていた。まずい。このままでは本当にまずい。このサークルに居場所がなくなってしまう。かといって、先輩がトイレの神様になってしまってる今、トイレに行きたいとはいいづらい。海美は咄嗟にスマホを取り出し、1分後にアラームが鳴るように設定した。電話がかかってくる状況を偽造したのだ。

 設定通りスマホのアラームが鳴った。「ごめん!ちょっと電話!」他のメンバーに外に電話に出るために外に出ることを告げた海美は通話相手など存在しないスマホを取り出して駆け出していった。周りにコンビニや公衆トイレはない。これ以上動くわけにもいかない。どうしよう。焦りが募っていく海美の目はある一筋の光をとらえた。

 路地裏。

 居酒屋と他のビルの間に細い路地裏を見つけた。ここしかない。意を決した海美は暗がりの中路地裏に進軍し、ある程度進んだところでショートパンツと下着を太ももの中腹まで下ろし、臀部を後ろに突き出す形で放尿を始めた。フェンス越しに勢いよく壁に叩きつけられる尿は勾配に沿って海美の足元に小さな池を作った。だが、海美の秘部から放たれた尿の道筋はそれだけではなかった。太ももまで下ろした下着とズボンをポタポタと濡らしていったのだ。さらにここで海美の誤算が生じた。拭くものがない。スマホ片手に飛び出した海美は完全に丸腰。仕方なくびしょびしょの下半身のまま、垂れた尿で濡れた下着とズボンを履いた。

 下半身がぐしょぐしょして気持ち悪いと思いながらも海美は何食わぬ顔で居酒屋に戻った。嘔吐していたはずの先輩はケロっとした顔で席に座り他の先輩と談笑していた。先ほどまでの自分の努力と決意は何だったのだろうか。海美は声にならない感情を押し殺し、飲み残してたコーラを一気に飲み干した。

 飲み会が終わり、皆が帰路に着く中、飲み干したコーラが響いたのだろうか。再び尿意が襲ってきた。居酒屋のトイレは健在だったが海美は先輩の背中を追いかけて駆け出した。

 「あの公園まで」

 ちょっとした好奇心が海美の才能を刺激した。

 


 

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