#05 手紙
―手紙―
「ケイタ、お元気ですか。
最後に会えずにこっち来てごめんな。
なんかケイタに会ったら、気持ちが弱くなりそうやったから。
一人暮らしを始めたんや。埼玉の叔父さん家の近くで、大宮っていう所や。
叔父さんってのは、お母さんのお兄さんで、とってもいい人や。
高校も決まった。夜間の高校や。
昼間は働いて、夕方から学校や。
叔父さんがいろいろ動いてくれて、ほんま感謝やわ。
毎週日曜日には、東京に行ってレッスンや。
どうなるかわからんけど、がんばってみる。
ケイタはどう?新しい曲ができたらカセットテープ送ってや。待ってる。
詩織 」
「詩織、手紙ありがとう。
オレは元気やで。
新しい曲送るわ。『遠い空』っていう曲や。めっちゃ自信作や。聴いてくれ。
オレな、東京の大学に行こうかと思ってんねん。
で、大学行きながら真剣に音楽活動しようかと思うんや。
そうすりゃ詩織とも近くなれるしな。
ただ、親がな、それなりの大学じゃないと東京には行かせん言うんや。大阪の大学に行かせたいみたいでな。
なんで、ちょっと勉強もがんばらなあかんかな。
卒業まで、あと一年半や。がんばるわ。
詩織もがんばれな。
ケイタ 」
「ケイタ、手紙ありがとう。
新曲聴いたよ。『遠い空』、いい曲やね。やっぱケイタは才能あるよ。
こっちはね、けっこう大変や。
昼間は喫茶店で働いてるんや。忙しいお店で、毎日クタクタになるけど楽しいで。
夜は学校や。友達もできたで。
なんか自由になれたような気がして、来てよかったと思ってる。
東京の大学ええなぁ。ケイタが東京に来るの、今から楽しみにしてるで。
詩織 」
「詩織、元気ですか?オレは元気です。
そっちの生活楽しそうやな。うらやましいわ。
オレも早くそっちに行きたいなぁ。
東京に行ったら、きっと楽しいことがいっぱいあるんやろな。
この前の進路相談で、今のままじゃ希望の大学はかなり難しいようなことを言われた。
親からは、その大学に受かったら東京に行ってもいいって言われてるんやけど、まだまだがんばらないと。
女優への道はどうや?芸能人とかには会えるんか?
がんばってな。
ケイタ 」
「ケイタ、元気ですか?
わたしはこっちの生活にもだいぶ慣れて、がんばってるよ。
毎週レッスンに行ってるんだけど、楽しいよ。演技を教えてもらうんや。
女優になりたい人ってたくさんいるんやな。正直みんなきれいでな、それはもう競争って感じ。
わたしと同じ育成のコが、この前テレビドラマに出てた。ほんの一瞬だった。
わたしはまだ、その一瞬にもなれない。
がんばるよ。
ケイタはどうですか?曲は作っていますか?
詩織 」
「詩織、元気ですか?
なんかすごいなぁ。詩織は東京でがんばってるんやなぁ。
そりゃあ女優になるなんて大変なことやろ。簡単には行かんよ。
でも詩織ならきっとなれると思うで。がんばれや。
この前、学園祭があってな、オレら体育館のステージでライヴやったんや。
詩織に見せたかったなぁ。盛り上がったんやで。
竜司って覚えてるか?最近、竜司と仲いいんや。あいつ思ったよりいい奴でな。
あいつも詩織のこと気にしてる。詩織のこと、あれこれ聞かれてうざいわ。
また曲作って送るわ。
ケイタ 」
「ケイタ、お元気ですか?
返事遅くなってごめん。
少し前に調子崩してしまって。
もうだいぶ良くなったんだけど。
オーディションとかあったもんで、ちょっとがんばりすぎたんかな。
それでアルバイトも休んでしまったんで、変えることにした。
もうちょっと短い時間でお給料もいいとこにしようと思って。
心配せんでええで。
ケイタもがんばってな。
詩織 」
「詩織、お元気ですか?
調子崩したって大丈夫か?
昔から詩織はそうや。がんばりすぎて無理すんねん。
なんでもほどほどにせなあかんて。
オーディションってなんのや?ドラマとかか?
決まったらええなぁ。
また教えてくれや。
ケイタ 」
「ケイタ、お元気ですか?
久しぶりになっちゃってごめん。
高校3年だね。勉強の方はどうですか?
わたしの方は、、、
正直に言うね。
最近はレッスンに行ってないんだ。
昼間の仕事だけじゃ金銭的に厳しくて、レッスン代まで出せなくて。
一人で生活するって、やっぱり大変だね。
夢を叶えるって、やっぱり大変だね。
わたし、何しに出て来たのかな。
喫茶店のお客さんでね、あるお店のオーナーさんなんだけど、働かないかって誘われてるの。
クラブっていうか、お酒のお店なんだけど、18になれば働けるらしいんだ。
お給料はかなりいいのね。どう思う?
ケイタの歌、毎日聴いてるよ。『遠い空』毎日聴いてるよ。
ケイタ、会いたいよ。
詩織 」
遠い空
なんでそばにいた時に
もっと話さなかったんだろう
なんでそばにいた時に
気持ちを伝えなかったんだろう
なんでそばにいた時に
約束をしなかったんだろう
なんでそばにいた時に
抱きしめなかったんだろう
遠く離れて気付いたことが
いっぱいあるんだ
君の街の夜空にも
同じ月が見えてるのかなぁ
あの頃のまま変わらずに
俺の歌 遠い空のあの娘に届け
あの頃のまま変わらずに
俺の想い 遠い空のあの娘に届け
ーつづくー
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