第7話 ビッグファンゴとの闘い

 迫りくる『ビッグファンゴ』。


「くそっ!」


 俺は慌てて【建築(ビルド)】スキルを発動する。作り出したのはいつもの『ビルドハンマー』だ。俺の手に木槌が現れる。


 何とか迎え撃つより他になかった。リノアを守らないと……。しかし、現実は非情であった。『ビッグファンゴ』の力は凄まじかったのだ。俺は無様にも吹き飛ばされる。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 俺は天高く、吹き飛ばされ、地表に叩きつけられた。


 ドスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 けたたましい音が鳴り響き、土煙が起きた。



「グラン様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 リノアが叫び、俺に駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫ですか! グラン様!」 


「ぜ、全然大丈夫じゃない! い、痛い! 死んでしまう!」


 俺は『ビッグファンゴ』の攻撃により、大ダメージを負った。死んでしまう……このままだと俺は。意識が朦朧としてきた。


「ま、待っててください。回復魔法(ヒーリング)!」


 俺はリノアの回復魔法(ヒーリング)にまたもや世話になった。俺は何とか一命を取り留める。


「あ、ありがとう……リノア」


「いえ、当然の事をしたまでです。それにグラン様が盾となってくれたおかげで、あの猪の攻撃を食らわずに済みました」


 俺達は再び身構え、『ビッグファンゴ』を見据える。


「どういたしましょうか? グラン様、この場から逃げましょうか?」


「いや……『ビッグファンゴ』は俺達を逃がすつもりはないようだ。せっかく見つけた食糧を目の前に、逃がしたくはないようだ」


『ビッグファンゴ』は鼻息を荒くし、今なお好戦的な態度を取ってきた。ビッグファンゴはその特性上、連続で攻撃できないようだ。その場で助走をつけて、一気に加速して体当たりをしてくる。それが『ビッグファンゴ』の単純(シンプル)かつ強力な唯一の戦法である。


「それにあいつは焼いて食べるとおいしいんだ。返り討ちにして、俺達の食糧にしてやろう」


「は、はい! わかりました! で、でもどうやってあんな大きな猪と闘うんですか?」


「さっき見ただろ? ……『ビッグファンゴ』は猪型のモンスターだから、連続して攻撃できないんだ。攻撃のあとに攻撃はできない……。必ず、攻撃の後に隙ができるんだ……。俺が奴の注意を引き付ける……だからそのうちにリノア、君が魔法攻撃であいつを攻撃してくれ」


「わかりました……」


 ちなみにではあるが、『ビッグファンゴ』の弱点属性は炎と雷属性である。【大賢者】のスキルを授かっているリノアなら問題なく弱点を突けるはずだ。その方が絶対に効率よくあいつにダメージを与えられるのだ。


「リノア……あいつには『炎魔法(フレイム)』か『雷撃魔法(ライトニング)』で攻撃してくれ……その方がダメージの効率が良いはずだ」


「わ、わかりました」


「行くぞ! 『ビッグファンゴ』!」 


 俺はビルドハンマーを構え、『ビッグファンゴ』と対峙した。


 ブヒ! ブヒ! ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!


 けたたましい鳴き声と共に、『ビッグファンゴ』が一直線に攻撃を仕掛けてくる。短調かつ、単純な攻撃故に読みやすい。


 二度も食らうものか。


「食らえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 俺は叫んだ。そして、『ビルドハンマー』を振りかぶる。とはいっても、俺の『ビルドハンマー』では奴にろくなダメージを与えられない事だろう。俺の狙いは別にあった。俺は地面を激しく、叩きつけたのだ。そう、救い上げるようにして。


 その結果、大量の砂埃とイシツブテが発生し、『ビッグファンゴ』の顔あたりに直撃したのだ。


ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!


視界を奪われた『ビッグファンゴ』は長い悲鳴を上げて、攻撃を中断したのだ。


「今だ! リノア!」


「は、はい! わかりました! 火炎魔法(フレイム)!」


 紅蓮の炎が『ビッグファンゴ』に襲い掛かる。炎に焼かれた『ビッグファンゴ』は長い悲鳴を上げ、苦しむのだった。


「やりました! グラン様!」


「まだだ! リノア! 油断するなっ!」


『ビッグファンゴ』はその名の通り、大きな猪のモンスターだ。故に耐久力が高い。リノアの火炎魔法(フレイム)の魔法攻撃を身に受けて尚、健在であった。炎の中で助走をつけている。今にもこちらに、突進攻撃をしかけてきそうだった。


「まだ生きている! そ、そんなっ!」


「慌てるな! リノア! あいつの攻撃のスピード自体は速いが、技が出てくるまでに時間がかかる! すぐには襲い掛かってこない! 落ち着いて次の魔法攻撃をしかけるんだ!」


「は、はい! わかりました! グラン様! 雷撃魔法(ライトニング)!」


 リノアの両手から、雷撃が発生し、『ビッグファンゴ』に襲い掛かる。


ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!


 『ビッグファンゴ』は長い悲鳴を上げた。ついにその体力(HP)がゼロになったようだ。


「ふう……なかなかにしぶとい奴だったな」


「ええ……ですが何とか倒せて良かったです。これで食糧も手に入りましたし……」


『ビッグファンゴ』を倒した事で、一応は俺達は落ち着いた時間を取り戻す事ができた。もういいだろう……緊急事態ではなくなったんだし。


「リノア……一つだけ頼みがあるんだ」


「は、はい。なんでしょうか?」


「そ、その……服を着て欲しいんだ」


「あっ! は、はい! す、すみません! お、お見苦しいものをっ!」


 リノアは慌てて、おいていた服を着始める。


 い、いや……見苦しくなんかはなかったけどなぁ……。眼福だった。とはいえわざわざ言う必要もないだろう。


 俺は溜息を吐いた。こうして行水を終えた俺達は『ビッグファンゴ』の肉を食糧として手に入れる事ができたのだ。ついでに飲料水、生活水にもなる『水』を手に入れる事ができた。


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 入手アイテム


アイテム名。猪肉×10。

詳細説明。『ビッグファンゴ』の肉。リノアの炎魔法(フレイム)により焼かれて調理済み。そのまま食べてもおいしい。食べると体力(HP)が回復し、満腹になる


アイテム名。水×10。

詳細説明。水。喉を潤す事ができる。また、お風呂を作った場合、加熱してお湯にすれば入浴する事もできるようになる。ただ飲む以外にも様々な利用方法が考えられる


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「よし……家に帰ろうか、リノア」


「そうですね……帰りましょうか」


 朝方出発したのだが、既に夜になろうとしている。さっきのようにモンスターが平然と襲い掛かってくるのが北の辺境の特徴である。とても夜営などできるはずもない。家まで帰る方が賢明であった。


「行水もできたし……食糧も水も手に入った」


「大成功でしたね。グラン様!」


 こうして俺達はその日の課題(ミッション)をクリアし、ご満悦で家まで帰っていったのだ。

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