第4話 弁当

 (なんなんだあいつは!?本当に…。)


 朝起きると、玲羅は昨日のことを思い出して悶絶していた。


 なんでも、昨日の夜中に、椎名翔一が部屋に入ってきて、頬を撫でられたと思ったら、突然告白された。

 いままでそんな経験がない玲羅にとって、ただ寝ている振りをするしかなかった。


 (あいつは何をもって私を好きだと…。い、いやこれ以上考えたら恥ずかしくて死んでしまう…。)


 そう考えながら、ふと横を見ると、例の男と目が合った。男とはすなわち椎名翔一だ。


 「~~~っ!?」


 目が合うと、どうしても恥ずかしくなって、玲羅は急いでリビングに駆け下りていった。


 下りた先には、椎名翔一の妹―――椎名結乃がいた。あまりにも勢いがありすぎる行動に、不信感を持った結乃が、質問してくる。


 「天羽先輩、何かあったんですか?なんか、リビングで寝てたはずのお兄ちゃんも消えてて…。」

 「あ、その……何でもない。お兄さんなら寝ぼけてたのか、深夜に部屋に入ってきてたみたいだぞ。」

 「え!?そうなんですか!?すいません、睡眠の邪魔しちゃって。」

 「いや、いいんだ。それよりその……」


 その挙動不審な玲羅に、結乃は盛大な勘違いをしてしまう。


 「は!?もしかしてお兄ちゃんが襲いました!?本当に申し訳ありません!お願いします、警察にはいかないでください!」

 「お、落ち着くんだ。大丈夫だ、私は襲われていない。」

 「じゃ、じゃあ、何をされたんですか!?なんでもしますから、問題にだけはしないでください!」

 「なあ、俺ってそんなに信用ないか?」


 そう言いながら、上から降りて来たのは翔一だ。


 「~~~っ!?ど、どこから聞いていた!」

 「―――?どこからって、結乃が『何をされたんですか!?』って詰め寄ってた時。」

 「じゃ、じゃあ聞いてないんだな?」

 「なにを?」

 「いや、いいんだ…。」

 「お兄ちゃん、なにしたの!天羽先輩に襲いk「いい!結乃、いいって…。」

 「―――?」


 結乃と玲羅のやり取りを見て、首を傾げる翔一。今朝の椎名家は、いつもより賑やかだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 今朝から玲羅の様子がおかしい。

 十中八九、、昨日の夜、俺が何かしたんだろうが、一切憶えてない。


 現在、登校中な訳だが今日は一人だ。いつもなら妹と行っているのだが、結乃が「天羽先輩と行く」って言って、いつもより早く行ってしまった。


 とりあえず俺が三組の生徒という事だけ伝えておいた。


 彼女は一組の生徒、冤罪をかけられ、自身を振った男もいるクラス。俺だったらそんな教室にいられない。


 というわけで、あの事件は冤罪かもしれないという洗脳―――もとい、諭されているクラスに休み時間くらい来ればいいじゃない、という事だ。


 家から20分ほど歩いていると、学校が見えてくる。


 昇降口で上履きに履き替えて、教室に入るといつものメンバーに話しかけられる。


 「よお、翔一。」

 「おはよ、椎名君。」

 「ああ、おはよ。蔵敷、矢草。」


 こいつらは、クラスメイトの蔵敷くらしき矢草やぐさだ。どちらも中肉中背の男子で、転校初日から仲良くしてくれている二人だ。


 そんな二人と談笑して、授業を受けていたら、時間というものはすぐに去っていくもので、時刻は昼休みを示していた。


 うちの学校は、基本的に生徒の好きなところで食事を取って良いため、皆思い思いの場所に移動し始める。


 そんな最中、突如教室がざわめき始める。

 玲羅が、うちの教室の前に来ていたのだ。

 珍しく、休み時間に他クラスの教室へ来た玲羅に、数人のクラスの女子がたむろし始める。


 「あれ、天羽さんうちのクラスに何か用?」

 「えっと……その……」

 「あ、もしかして呉橋くれはし先生に用事?多分、先生は職員室にいると思うよ。」

 「その……違くて……このクラスに椎名というやつはいるだろうか?」

 「椎名……ああ、転校生か!おーい、呼んでるよー!」


 色々なやり取りした後に、最終的にその女子が俺の名前を呼んで、そこに俺が向かう事になった。


 「どうしたんだ、天羽?」

 「その、状況は知ってるだろ?それのせいで、教室にいずらくて…。」

 「ほら、こっちにこい。一緒に食うか?」

 「―――っ!?ぜひ、よろしく頼む。」


 一瞬玲羅が、満面の笑顔になったが、すぐに元に戻った。

 二人で、先ほどの二人のいる席に座ると―――


 「お前、翔一、いつの間に天羽を口説き落としたんだ?」

 「椎名君、まさかとは思ってたけど、やるねえ。」


 蔵敷は驚愕、矢草はニヤニヤといった表情を浮かべる。口説けるのならどれだけいいか。


 「天羽とはそういうんじゃない。単純に縁があっただけだ。」

 「そそそそそそうだ!私たちはそういう関係ではない!」


 冷静に返した俺に反して、玲羅は大分キョドっていた。

 なにもそんなに否定しなくても…。


 ショックで、軽く落ち込んでいると、何を焦ったのか玲羅が、俺に対して弁明を始める。


 「そんなに落ち込まないでくれ…。その……悪かったから…。」

 「冗談冗談。気にしてないよ。」


 嘘。結構心に来てる。


 まあ、そんな本心は表に出せないので黙っておく。


 そんなやり取りをしつつ、玲羅が弁当を開ける。


 「はいはい、仲が良いのは分かったから……ちょっと待て、なんで翔一と天羽さんの弁当のメニューが同じなんだ?」


 迂闊だった。出る家が同じだったから、必然的に用意する弁当が同じになってしまったのだ。

 余計なことは言わずに、誤魔化さなければ―――


 「ああ、それは椎名が私の弁当を作ってくれたのだ。」

 「「え!?」」


 おっと!?天然は要らないよ、玲羅さん?


 「勘違いすんなよ、二人共。昨日の大雨で帰るのが難しくなってた天羽を、うちに泊めたんだ。」

 「いやいやいや、椎名君、それも十分大したことなんだけど?」

 「翔一、お前、大人になったんだな?」


 矢草の言っていることは分かるが、蔵敷、てめえの言ってることは意味が分からん。


 「椎名、なぜ嘘をつく。お前が私を慰めてくれたんじゃないか。」

 「ねえ、わざとなの!?ねえ!」


 忘れてた。天羽は、天然キャラでもあった。だが、ここまでとは思わなかった。


 「ねえ、今の聞いた!?天羽さんが、転校生の椎名君に慰めてもらったんだってー!」

 「「「きゃー!」」」


 なんか、クラスの女子たちが騒いでいるが、放っておこう。どうせろくなことにならない。


 「天羽さん、それ美味しい?」

 「ああ、美味しい。やはり、彩りも栄養バランスも整っていて、とてもいい弁当だと思う。」

 「だってさ翔一。」

 「今日の弁当は俺じゃない。今日は結乃の当番だからな。」


 毎日交代で飯を作っているからな。いや、実際は俺の労力の方が多いような気がする。


 今日は、結乃の当番。彼女は周りの目を気にしているので、彩り豊かな弁当を作ること多い。


 「じゃあ、明日はお前の作る弁当か。天羽さん、楽しみにしとけよー。こいつの料理、そこいらの飲食店より美味いからな。」

 「そんなに美味しいのか…。そういえば、昨日の餃子も何個かに一つくらいの頻度で、とんでもなく美味しいものが混ざっていたが、椎名のだったのか。」

 「天羽さん、椎名君の家でご飯食べたの!?」

 「ちょっと―、地雷投下多すぎない?天羽さん。」


 そんなこんなで、3組での食事を終え、午後のHRまで終わった後、ある事件が勃発した。

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