第10話 婚約者の職場訪問!

ということで俺たちが初の顔合わせを行ってから3日後、先日約束した通り俺はメリルの職場へと遊びに来ていた。もちろん、メリルも婚約者である俺をお出迎えをしてくれるが何よりもうれしそうな顔をして迎えてくれるグレント侯爵が目立っている。


彼からすれば娘と王子である俺がいきなりの政略結婚であるにも関わらず、職場に遊びに行くような関係というのが嬉しいのだろう。俺はそんなことをしないけど、ほかの国の王族とか高位の貴族は婚約はするものの、その後は一切関わらず本当に政略的な関係で終わることもあるからな。


そう考えれば侯爵からすれば俺の行動はかなり積極的なものだと捕らえられたのだろう。


「殿下、本日はよくぞいらっしゃいました。娘も殿下がいらっしゃると聞いて大変喜んでいますよ!」


そんな風にうれしそうな顔をしている侯爵の言う通りメリルを見てみると相変わらずの真顔である。いや、いや、お宅の娘さんの顔を見てどこが喜んでいるんだよ!むしろ不満そうに俺の方を見ているじゃないか!


「あぁ、それは良かったよ。今日はよろしく頼むよメリル。」


「お任せください、マクリッド様。」


俺が侯爵の隣に控えているメリルにそう言うと彼は途端にうれしそうな顔をしだす。


「おぉ、仲睦ましいようで大変結構です!それでは、私はお邪魔なようなのでこれで失礼いたします。メリル、殿下をしっかりご案内するんだぞ。」


そんな感じで侯爵はそそくさとどこかへ行ってしまった。この人、ヨイショがすごいな


「それでは、ご案内させていただきます。こちらへどうぞ。」


そして相変わらずの真顔の彼女。まぁ、今日はそのことに関して確認をしに来たのだからはっきりするだろう。俺は彼女の案内の元、開発が行われている現場にお邪魔するのであった。




「皆様、少しお時間をよろしいでしょうか?」


彼女に案内された場所は会議室のような場所だった。その部屋の中には3人の男女が会議を行っており、かなり白熱しているようだった。


彼らは俺たちの入室に気が付くと先ほどの白熱具合は何だったのかというくらいに静かになる。


「お嬢様、どうなされたのですか?ん?そちらの方はどなたですか?」


「こちらは先日、私との婚約の話をお受けしていただいたマクリッド王子です。本日はマクリッド様が私の職場をご覧になりたいとおっしゃられたのでこちらにお呼びしたんです。」


メリルが説明すると彼らは急にニヤニヤし始める。


「ほぉー、あのお嬢様にもついに春が来たのですか!いゃ、王子様との婚約なんて良かったじゃないですか。私、てっきりお嬢様は誰とも結婚しないものかと思っていたんですよ。本当に良かったです!」


どこぞの近所のおばちゃんのような言い方をしているこの女性はみんなの想像通り、ふくよかなおばちゃんだ。


「ん?マクリッド王子ってどこかで聞いた名前だよな?どこかで聞いた気がするんだが?」


続いての発言は頑固な職人というイメージのおじさんだ。俺の名前をどこかで聞いたことがあるようで頭を抱えてうなっている。たぶん、自分の国の王子の名前だからじゃないですかね?


「何を言っているんですか?マクリッド王子と言えばあの将棋の発明者である凄腕の知恵者ですよ!本物に出会えるなんて感激です!ぜひ、サインください!」


最後は若い細長のお兄さんという感じの男性だ。あぁ、さっきのおじさんの話はそっちなのね。というか、将棋は自分で考えたわけでもないのにサインを書くとかどんな罰ゲームだよ!絶対嫌だからな。


「こら!あんた、王子様になんて口の利き方だよ!しかもサインをねだるなんて不敬な奴だね。あんたのせいでお嬢様の婚約の話が無しになったらどう責任を取るつもりなんだい!王子様、このアホが本当に申し訳ありません!」


「うぐっ、すみませんでした。」


そう言うとおばちゃんは細長のお兄さんの頭を鷲掴みにして頭を下げさせる。なんかこの人みんなのおかあちゃんみたいな人だな。一番話しやすそうだ。


「いや、別に気にしてないから大丈夫だ。まぁ、さすがにサインは止めて欲しいけど。」


俺も別に卑下するような言い方でないのなら言葉遣いくらい気にしてないからな。別にいいんだ、サインは嫌だけど。


「まぁ、お心の広い人なんですね、こんな立派な方がお嬢様のお相手で私は嬉しいですよ。私はお嬢様がこんな小さい時から見てきましたからね、それは、それはもう可愛くて仕方ないんですよ。」


おばちゃんの独壇場が続くと思いきやここでメリルがストップをかける。


「昔の話はそれくらいにしてください。殿下は私の昔の話を聞きに来たわけではないのですから。」


「あぁ、ごめんなさいね。私ったらついついおしゃべりで、いっつもお嬢様に注意されちゃうんですよね。」


なんか、この人たちと話しているメリルは楽しそうだな、相変わらず真顔だけど。こうなると俺の考えてきたことが、いよいよ現実味を帯びてきたな。あとでこのおばちゃんにも確認をとってみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る