C言語で学ぶ大学の数学 準備編「多項式の乗法」

この記事はC言語で以下のような計算をすることを目標とします。


・1変数多項式の乗法

・2変数多項式の乗法



1.1変数多項式の乗法


まずは基本となる1変数多項式の乗法から説明します。

N 次多項式 a(x)と M 次多項式 b(x)が与えられたとき、c(x)= a(x)b(x) を求めます。

c(x) の次数は高々 N+M です。まずはそのことを踏まえて多項式の次数を格納します。


int deg_a = N;

int deg_b = M;

int deg_c = deg_a + deg_b;


(高々の説明:係数が整数や有理数、実数など「整域」である場合は、多項式 0 の次数を-∞と定義すればc(x)の次数はa(x)とb(x)の次数の和に等しくなります。

しかし剰余環 Z/6Zなど、整域でない環を係数とする多項式の場合は次数の和がc(x)の次数になるとは限りません。例えばZ/6Z係数の多項式 a(x) = 2x+1, b(x) = 3x について a(x)b(x) = 3x となり次数が2より小さくなっています。)


次に係数を格納する配列変数を用意します。


float a[deg_a +1], b[deg_b +1], c[deg_c +1];


なお加法と異なり deg_c はdeg_a, deg_b の値で場合分けが生じないので、あえてdeg_cを定義せず


float a[deg_a +1], b[deg_b +1], c[deg_a +deg_b +1];


としても同じです。

変数を用意したら、a(x)とb(x)の係数を格納しておきます。

それが終わってから乗法を計算します。計算方法は案1と案2があります。n, i, j をint型の変数とします。


案1

for(n=0; n<=deg_c; n++){

 c[n] = 0;

 for(i=0; i<=deg_a; i++){

 for(j=0; j<=deg_b; j++){

  if(i+j==n) c[n] += a[i]*b[j];

 }

 }

}


案2

for(n=0; n<=deg_c; n++){

 c[n] = 0;

 for(i=0; i<=deg_a; i++){

  if(n-i>=0 && n-i<=deg_b) c[n] += a[i]*b[n-i];

 }

}


案1は素朴にa(x)の i 次の係数とb(x)の j 次の係数を取り出してきて、次数の合計がnに等しければ係数に加える、というものです。

案2は「i+j=n」と「j=n-i」が数学的に同値なので、変数 j を使わずに表現したものです。ただしjのとる範囲が0<=jかつj<=deg_bであるので、ifの中身にそれを反映させています。

変数が少ないぶん案2のほうが計算時間は少なく済むと思いますが、好みの問題もあるのでどちらでもいいです。



2.2変数多項式の乗法


では、今度は2変数多項式の計算をしてみます。

まずは多項式の係数を格納するための変数を定義します。まずは次数からです。


int deg_ax, deg_ay, deg_bx, deg_by;


これらに次数を代入してから、多項式の係数にあたる変数を定義します。今回はc(x,y)の次数をあえて格納しないことにします。


float a[deg_ax +1][deg_ay +1];

float b[deg_bx +1][deg_by +1];

float c[deg_ax +deg_bx +1][deg_ay +deg_by +1];


変数を用意したら、a(x,y) と b(x,y) の係数を代入しておきます。

それが終わったら、乗法を計算します。int型の変数 m, n, i, j, k, l を用意しておきます。1変数のときと同じように計算方法は案1と案2があります。


案1

for(m=0; m<=deg_ax +deg_bx; m++){

for(n=0; n<=deg_ay +deg_by; n++){

 c[m][n] = 0;

 for(i=0; i<=deg_ax; i++){

 for(j=0; j<=deg_bx; j++){

  for(k=0; k<=deg_ay; k++){

  for(l=0; l<=deg_by; l++){

   if(i+j==m && k+l==n) c[m][n] += a[i][k]*b[j][l];

  }

  }

 }

 }

}

}


案2

for(m=0; m<=deg_ax +deg_bx; m++){

for(n=0; n<=deg_ay +deg_by; n++){

 c[m][n] = 0;

 for(i=0; i<=deg_ax; i++){

  for(k=0; k<=deg_ay; k++){

   if(m-i>=0 && m-i<=deg_bx && n-k>=0 && n-k<=deg_by)

    c[m][n] += a[i][k]*b[m-i][n-k];

  }

 }

}

}


1変数のときのように、a(x,y)の x^i*y^k の係数とb(x,y)の x^j*y^l の係数を取り出してきて、x と y の次数の和がそれぞれ m, n であるときに足すものが案1です。

またb(x,y) の係数に相当する変数 j, l を j = m-i, l= n-k により除去したものが案2です。


同様にして、3変数以上の場合にも多項式の乗法が計算できます。

変数が増えていくと計算時間も長くなっていくため、案2で計算することをお勧めします。



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