第6話告白のクーリングオフ


「……………………っち、あの豚」


 俺だけにしか聞こえないほど小さく雪宮は呟く、恐らく彼女だけだけではなくクラス中で柄山の評価は底辺に落ちた。しかし、それが予想出来なかった兄弟ではあるまい。

 それを超えるご褒美が有ると思ったから分が悪い賭けに彼は全ベットした。実に男だと俺は思うよ。

 だが、夢はあくまで夢。札束を持ってラスベガスに夢見た男のように華やかな世界の影で散っていくものだ。


「っあ、ご褒美だったね。これあげるよ」


 思い出したかのように片桐がポケットに手を入れると、柄山は何を勘違いしたのか自分のスマホを取り出して自身のQRコードを表示させる。


「ん……ここに乗せればいいの?」


 何のため、とでも言うかのような表情をしながら片桐はそのQRコードの真上に四角の20円チョコをピッタリと乗せた。

 もちろん柄山は友達になって連絡先が知りたかったのだろう、そしてそれが分からないほど片桐もIQが低い訳じゃない。馬鹿を装って遠回しに拒否したんだ。


「っえ、いや、えッ?」

「っえ? 何か間違えちゃった?」


 困惑する柄山にとぼける片桐。もちろん、大衆の面前で連絡先が欲しいですと言うのに勇気が必要ということを分かってなあなあにする作戦なんだろう。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ」


 すると柄山が息を吸いながら覚悟を決めるたように片桐に目を合わせた。どうやら兄弟は予想以上に片桐を馬鹿だと思っているようだ。


「連絡先をください」


 何だろう、凄く既視感があって嫌だな……胸やけしてきそうだ。


「っあ、あーー、ごめん私LINEとかやってないからインスタならあるから検索してフォローして?」


 問.今時の女子高生がLINEやってないなら家族と連絡をする時どうしているか

 答え.WhatsAPP,Kakao Talk,Wechat


 聞いたことない? なら片桐は余計聞いたことないだろう。まさかインスタで家族と連絡を取っている訳でも、いちいち電話で連絡を取っている訳もあるまい。


「そ、そっか、女の子だしね……そういうの分かんないかもしれないね」


 とある科学者の研究によると人間は自分と同じ性別が得意な作業と言われたら作業効率が上がり、逆だと下がるらしい。

 都合よく性別で得意不得意になる、それが人間だ。同じように兄弟は都合よく現実から目を背けてしまった。


「夢見るならせめて努力しろし、それに比べてぼっちくんは夢見ないね。ワンチャンとか思わんの?」


 隣にいた雪宮が純粋に疑問を口にする。もうすでに夢破れているからな……これでまだ夢見る程図太くは生きられない。


「俺だってそこまで可愛くなったら周りを見下せて自慢できるようなイケメンに抱かれるし、ひも生活できるお金持ちの男を選ぶ。遊びでも自分というブランドに傷がつく可能性がある俺等を選ぶ理由がない」

 

 そこまで言うと雪宮が「へぇ、分かってんじゃん」と言い残すと、柄山との話が終わったのか片桐が歩み寄ってくる。


「二人して何の話してたの?」

「大した話じゃないし説明するの面倒だから知りたかったらぼっちくんに聞いて」


 雪宮がそう投げ出すと近くのベンチに座って他の生徒と雑談を始めてしまう。ちょっと、仮にも友達って奴なら説明責任を他人に投げ出さず、全うした方が良いと思いますよ。おかげで俺はすごく気まずい。


「ぼっち会ってすぐなのにもう雪と仲良くなったよね。私より仲いいぐらいじゃない?」


 そりゃ元々の仲が大したことないからな、初日で追い越しちゃうとは底も底だったって話だろう。

 そして今が口止めする絶好のチャンスと気づいた俺はズキズキする心臓を酷使しながら勇気を絞った。


「あの、片桐さん俺が告ってお前が振った話。あれもう二度と言わないで欲しいんだけど……ダメか?」


 片桐が少し固まったように動かなくなった。怖、何で無表情になるんですか。ダメならダメでいいから何か言ってくれ。

 変な間が二人の間に流れると再起動したようで片桐がまたあのサキュバスのような眩い笑みを浮かべる。


「それって……つまり無かったことにしよ的な話だよね? 全然いいよ、私も忘れたかったし」 


 ん? なぜわざわざ言い方を変えたんだ。もしかしてあれか、片桐もバレたら迷惑的な理由があって無かったことにして絶対バレたくなかったのか。だったらなんて都合良いんだ。

 いつまでも返事を返さないでいると片桐の表情が次第に不安そうな表情になる。


「そう、そういうことだ、そっちも同じこと考えてたならお互いあのことは忘れよう」 

「良かったぁ、あの時はごめんね。別にぼっちが生理的に無理とかって意味じゃなかったんだけど周りがほら……」

「あぁ、そうゆうのいいから、気遣うの疲れるだろ。俺のことはいいから雪宮さんの所に行きな」


 この期に及んでもフォローしてくる優しい片桐さんを適当にあしらうと不貞腐れたように頬を膨らましてくる、可愛い。

 でもわざわざ頬を膨らませる動作はあざとくてマイナスだな。だって日常で使う訳がない、ソースは俺が使う機会がなかったから。ならわざわざ使う意味は本人が可愛いと思っているに他ならない。


「男の中二病みたいなもんだな、女も歳を取るとあの頃は痛かったとか思うのだろうか」

 

 なら私可愛病とかそんなネーミングを付けてあげるべきだろう、中二病と違って半分ほど実際可愛いだけにタチが悪いけど。


「………チロル……チョコ」


 残念そうにチョコを見つめる兄弟、何が不満なんだろうか。チロルチョコ美味しいだろ。俺なんて何も貰えなかったぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る