別れたヤンデレ元カノが義妹として帰ってきました

依奈

プロローグ

 俺――篠山ささやま友樹ともきには付き合っている彼女がいる。名前は星野ほしの凛花りんか。学年内でも美少女として有名だった。廊下を歩けば両サイドに人だかりが出来、黄色い歓声が上がる。

 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、品行方正(表では)。否の打ち所の無い美少女に見えるが、彼女にも重大な否があった。

 それは――重度のヤンデレということだ。ヤンデレな一面を見せるのは俺にだけ。だから、周りの人々は彼女の本当の姿を知らない。


「おはよう、友くん」


 今日も彼女は笑顔で俺に挨拶する。廊下ですれ違ったのだ。隣のクラスだからあまり会う機会は無いのだが……。


「おはよう」


 俺も挨拶を返す。この時の俺は俯いていた。


「もっと私を見て? 笑顔、笑顔!」


 そうやって凛花は俺を無理やり笑わせる。


 去っていった凛花の黒髪は揺られていた。ストレートのツインテールは陽光に照らされて光輝いている。


 それから数時間の授業を受けた。

 授業中、(もう凛花とそろそろ別れないとな)という考えが頭を巡っていた。


 俺は放課後、凛花に別れを告げようと決意する。


 放課後。


 凛花の教室に行った。


 凛花は何やら机で何かを書いているようだった。


「何やってるんだ?」


「ああ、これね。友くんへのラブレターを書いてるの」


 手紙は見た感じ、100通は越えているだろう。どうしてそんなに俺への手紙が必要なんだ?


「ちょっと見ていいか?」


 凛花にそう聞くと出来上がったこっちなら見てもいいと。


 そこには……「好きです好きです好きです好きです」、「大好き大好き」、「永遠にずっと恋人だから」、「許さない許さない許さない」などといった文字が乱立していた。


「あー」

 若干、引いた。いや、かなり引いた。


「これ、俺にくれるのか?」


「何その、嫌そうな顔」


「好きだよ」、そう言って凛花はラブレターをぶちまいた。紙が上空に舞っている。


「あの、俺はもうお前のことが好きじゃない。別れよう」


 凛花は心外。そんな表情に変わった。


「それって私のことが嫌いってこと?」


「そういうわけじゃないんだ」


 俺は否定したが、凛花は嫌われていると勘違いした。


「私はこんなに愛してるのに……! 友くんを好きなのは私だけだよ? 何がいけないの? 別れるなんて、嘘だよね!? 考え直して、お願い」


「愛が重すぎるんだ」


「もう、分かった。あなたを殺す。そして死体を愛す」


 ちょっと理解出来ない事を言い始めた凛花さん。


 そして、あろうことかカッターを振りかざした。


「なっ」


 凛花は俺の額から鼻にかけて、カッターでひと切りした。敢えて抵抗しなかった。チクチクした痛みに耐える。凛花のあおい瞳が夕焼けに照らされて艶めいて見える。


「殺されてもいいの?」


「カッターじゃ殺せねーだろ」


「今度、包丁持ってくるから。用がもう無いなら帰って」


 帰れと言われたので、俺は額を押さえながら教室を後にした。


 残された教室で、凛花はラブレターをちぎりながら、泣いていた。


「どうして……どうして。私は友くんしか見えない。友くんのことだけを見てる。友くんは私だけのもの。絶対許さない」


 凛花の復讐心が熱く燃えていた。


 次の日。

 凛花と廊下ですれ違ったが、すごく元気を無くしているようだった。俺があんな事、言ったからか。


 それからというもの、凛花と俺の接点は無くなった。


 時々、凛花がトイレの前で待ちぼうけしている事があった。


「何やってんだ?」と聞くと。


「トイレしてる友くんを想像して興奮していたの」


「気持ち悪い……」


 俺は凛花の奇行に呆れる事しか出来なかった。


 それ以外も移動教室の時に後ろをつけて回る、俺の靴やシャツを勝手に着たり、履いたりするなどの奇行が挙げられた。恋人時代は凛花の血が入ったチョコを気づかずに食べさせられた事もあった。


 下駄箱に土が盛られてる事もあった。凛花の仕業と分かってるので、いちいち反応しない。次の彼女でも作ろうかと思ったのだが、何故か上手くいかない事が続いた。きっと裏で凛花が何かしているんだと思い込む事にした。


 連絡先も削除したはずなんだが、謎に詮索されている気がした。


 見知らぬアカウントからのメッセージ。それは家族LINEだった。こんな奴、知らねぇぞ。と思ったが、これが後の衝撃的な出来事に繋がることをこの時の俺は知らない。


 そして、メッセージにはこう書かれていた。


『キスがしたい』


 完全な出会い厨だろ、と一瞬で察したが、ブロックしようにもブロック出来なかった。何この設定。明らかにブロック出来ない設定にされているようだった。


 帰り道。

 ぼそぼそと歩く。外はもう真っ暗だ。部活終わるのが遅かったから、想定内の時間だった。


 見慣れた住宅街。俺の家は一軒家だ。インターホンを押しても出ないので、玄関の鍵を自分で開けた。


 すると、驚きの光景が広がっていた。


「お帰り、お兄ちゃん」


 その声は元カノ――星野凛花の声で間違いなかった。


 何で、お兄ちゃんなんだ? と思っていると母親が説明をし始めた。




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