第47話 私は、許さない。

■柿崎初穂視点


「すう……すう……」


 隣で眠る優太の寝顔を見て、私はクスリ、と微笑む。


 結局、あの巨額詐欺事件のことまで優太は私のために色々と尽くしてくれて、私を救ってくれた。

 本当に、私のヒーロー……ううん、そんな単純な言葉で表したくない。


 優太は……私の優太・・・・だ。


 まだ事件の全てが終わったわけじゃないし、不起訴処分になったらお父様を引き取らないといけない。

 それに、多額の損害賠償が発生するから、相続放棄の手続きなんかも準備しなきゃいけないなど、まだまだやることが山積みだ。


 でも……そういったことも、優太が既に色々と動いてくれていて、佐々木先輩や木下先輩、琴音に協力してもらいながら、準備を進めてくれている。


 それというのも。


『はは、初穂は来年受験を控えてるんだから、こういったことは僕に任せてよ! むしろ、大学で学んだことが君のために活かせるだなんて、こんな嬉しいことはないんだから』


 そう言って、優太は優しく微笑んでくれたんだ……。


 本当に……私はなんて幸せなんだろう。

 これまでは、神様を呪うことしかできなかった私だけど、今はただ、優太にめぐり逢わせてくれたことへの感謝しかない。


 そんな優太に、私は何一つ返せていない……んだけど、実はこの前、私は佐々木先輩と木下先輩から、色々と話を聞いた。


 優太が……最低の幼馴染と最低の親友だったクズに、心を壊されてしまったことの詳細についてを。


 もちろん、そのことについてはあのビルの屋上で告白をしてくれた時に、優太自身が教えてくれた。

 でも、それは全部を話してくれたわけじゃなくて。


 佐々木先輩が言うには、大学のサークル勧誘で優太の姿を見た時、このままじゃ自殺しちゃうんじゃないかって、本気で心配したらしい。

 それくらい、優太の瞳は虚ろで、声を掛けても反応がなくて、ただ虚空を見つめている……そんな姿だったって、佐々木先輩、苦しそうに話してたな……。


 それからも、心配で仕方がない佐々木先輩は、優太が出席する授業を率先して選んで、たとえ反応がなくてもいつも声を掛けていたらしい。


 あは……佐々木先輩のそんな必死な姿を見たことがきっかけで、木下先輩は佐々木先輩のことを好きになって、付き合ったんだから……うん、木下先輩は絶対に人を見る目があるよね。


 それからは、佐々木先輩と木下先輩の二人掛かりで優太を励まして、思いやって……そのおかげで、なんとか会話もできるようになったって言ってたなあ……。


 だから。


『初穂ちゃん……本当に、優太を救ってくれてありがとう! 優太がこんなに笑顔を見せるようになったのは、絶対に初穂ちゃんのおかげだぜ!』

『うん……初穂ちゃんだから、優太くんを救えたんだよ? 本当に、あなたで良かった……!』


 二人が涙ぐみながら、私にお礼を言ってくれたっけ……。


 私なんて、何もしていないのに。

 私なんて、何一つ優太に返せていないのに。


 だから、優太を救ったのは、私は佐々木先輩と木下先輩だと思っている。

 本当に、二人には感謝してもしきれない……。


「あは……そんな佐々木先輩達も一緒に、優太が育った街に行けるんだから、嬉しいなあ……」


 あと一週間もしたら、私は優太の家に遊びに行くことになっている。

 もちろんすごく楽しみではあるんだけど、そ、その……優太のお父様とお母様、多分私のこと嫌ったりする、よね……。


 優太からは、お父様とお母様は私が来るからって張り切ってるって言ってたけど、でも、私は犯罪者の娘だから……。


 あは……このことを優太に言うとすぐに叱られちゃうから、今じゃ絶対に優太の前で言わないんだけど、ね。


「優太……」


 私は優太の胸に顔を寄せ、その寝顔に手を添える。


 ああ……私の世界一大好きな優太。

 私はもう、君なしじゃ生きていけない。


 優太はいつも、私のことを守って、心を救ってくれるよね。

 でもね? それは私だって同じ気持ちなんだよ?


 私も、優太を守りたいし、救ってあげたい。

 もし君が、佐々木先輩と木下先輩が言ってくれたように、私がいることで少しでも救われているのなら、こんな嬉しいことはない。


 だから、私は優太を助けてみせる。救ってみせる。

 そして、優太は私にたくさんの笑顔を見せてくれるようにしてあげるんだ。


 あは……覚悟してよね。


「でも……その前に……」


 ――私は、優太を壊した元幼馴染と元親友を、絶対に許さない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る