第九章〈二度目の戴冠式〉編

勝利王の書斎19:恐怖とは反応、勇気とは決断

 第八章から第九章へ——。

 は、歴史小説の幕間にひらかれる。


 こんにちは、あるいはこんばんは(Bonjour ou bonsoir.)。

 私は、生と死の狭間にただようシャルル七世の「声」である。実体はない。

 生前、ジャンヌ・ダルクを通じて「声」の出現を見ていたせいか、自分がこのような状況になっても驚きはない。たまには、こういうこともあるのだろう。


 ただし、ジャンヌの「声」と違って、私は神でも天使でもない。

 亡霊、すなわちオバケの類いだと思うが、聖水やお祓いは効かなかった。

 作者は私と共存する道を選び、記録を兼ねて小説を書き始めた。この物語は、私の主観がメインとなるため、と心得ていただきたい。


 便宜上、私の居場所を「勝利王の書斎」と呼んでいる。

 作者との約束で、章と章の狭間に開放することになっている。





 元はといえば、ここから先も第八章として書き進めていたが、一章当たりの話数が多すぎて長尺になっているため区切りのいいところで分割、八章と九章に分けてタイトルを見直すことにした。


 このページの前話「パテーの戦い」までを、第八章〈オルレアン包囲戦・終結〉編とし、次の話から第九章〈二度目の戴冠式〉編とする。


 作者の見通しの甘さにはほとほと手を焼かされるが、大目に見てもらえるとありがたい。こうなったからには、章始めの「勝利王の書斎」も第九章に合わせて新規で書き下ろさなければなるまい。フランスの慣用句シリーズもすでにネタ切れだが……、知恵を絞り出せ!


 現在進行中の物語に合うのはこれだろうか。


"La peur est une réaction. Le courage est une décision."


「恐怖とは反応、勇気とは決断」


 オルレアン包囲戦の終盤から、ランスの大聖堂での戴冠式を決断するまで。

 私の心境をあらわすならこの言葉がふさわしいと思う。


 ニシンの戦いの敗北を聞き、私は唯一無二の親友デュノワの死をおそれて降伏を考えた。包囲戦全般を見れば善戦していたのに、死の恐怖に屈しかけていた。


 この世界は理不尽なことばかりだと嘆き、うまくいかないことを運命のせいにして、現実にある「不幸」や心を蝕む「恐怖」からつい目を逸らす。チャレンジ精神を放棄した、軽はずみな自己犠牲も同じようなものだろう。


 ジャンヌ・ラ・ピュセルとの出会いが私に勇気をもたらし、滅びゆくフランスの運命をも変えた。


 少女の話を聞き入れるという決断。

 ジャンヌを戦地に派遣するという決断。

 ランスで正式な戴冠式を行うという決断。

 そして、その先に待ち受ける悲劇的な結末——。


 恐怖に負けてはいけないよ。それはただの反応だ。

 意志を持ち、勇気を出して決断しなければ、運命の歯車を反転させることはできないのだから。


 さて、時間が来たようだ。

 これより青年期編・第九章〈二度目の戴冠式〉編を始める。



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