第2話 僕の妻さん

 妻さんは面白い人だ。

 見ていて飽きない。

 美人は三日であきるというが、妻さんは結婚して三年経ってもあきることがない。まあ、結婚して三年経つといっても一緒に暮らしていないので、実際は三年一緒に暮らしている夫婦とは関係性は随分ことなるかもしれないけれど。


 妻さんは大学のサークルの同期だ。

 あとで語るが妻さんとはをした。

 ぶっちゃけると、第一印象は最悪だったし、なんなら大学を卒業する直前までまともに話したこともなかった。(しかも、妻さんは大学四年間、僕の友だちと付き合っていた。)

 そんな妻さんと話すようになったのは、卒業直前の追い出しコンパでだ。

 お酒が強い僕と妻さんはなぜだか意気投合した上に、いろいろお酒を頼んでいるうちに飲み比べのようになり、結構いけるくちだったはずの妻さんが酔っ払ってしまったのだ。

 とろんとした目で頬を赤らめる妻さんは、僕の思っている第一印象の強気で人を食ったような女性ではなく、可愛らしかった。

 つぶれかけた彼女が僕の胸の中にぽすんと寄りかかって、

「ねえ、あたまもっと撫でて?」

 なんて甘えた声で宣う。

 正直、今まで彼女がいたことはあっても、そこまでモテてたわけではないのでちょっとだけぐっときてしまった。

 というか、お酒の席で女の子に上目遣いで可愛くお願いされて抗うことができる男なんているのだろうか。

 残念ながら、実家から通っていた妻さんはそのまま一次会で帰った。意外と箱入りのお嬢さんなのだ。

 お持ち帰りなんて夢のまた夢だ。

 そんな訳で僕たちはよった勢いで関係をもつなんてありきたりのエピソードもない。

 酔った勢いで頭をポンポンと撫でた。

 そんな初で、イマドキのラノベやマンガもびっくりな清らかな関係が僕たちのはじまりだった。

 というか、こんなんじゃ何のドラマも起きない。


 だけれど、飲み会の翌日、僕はオールでカラオケをしたのでまだほんのすこし酔いがのこった状態で、妻さんからメールがきたのだ。


『昨日は負けましたが、悔しいので今度いっしょに呑みに行きませんか?』


 顔文字一つ無いシンプルなメールだった。

 そう、LINEじゃなくてメールの時代。

 スタンプなんかなくて、行間を読むのに絵文字を当てにしていた時代。妻さんは行間の余地などガン無視で非情にシンプルなメールを打つ人だった。


 昨夜の態度との温度差よ。


 だけれど、僕はその提案に了承した。

 別に昨夜の妻さんが可愛かったからではない……なんとなく、面白そうだったから。ただそれだけの理由で、大学四年間、ろくに交流を持つことなかった僕たちは二人きりで呑みに行くことになったのだ。


 やわらかなピンク色のカーデガンにベージュのスカート。小さなイニシャルのネックレスが胸に輝き微笑んでいる妻さんは、僕の記憶の中の女性とは大きく異なった。

 僕の記憶のなかの大学時代に見かける妻さんは、大抵、真っ黒なワンピースではっきりと物をいう口をへの字にまげていた。僕の好みのタイプの女性ではない。というか、いつも不機嫌そうな顔をして黒を好む女性がタイプなんて男はそうそういないと思う。


 そんな妻さんとの二人きりの飲み会は楽しかった。

 明るくふんわりと笑う妻さんはすごく女の子らしくて、気が付くと彼女が笑うと一緒に笑うようになっていた。

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