第3話 アドベントの時間の中で謡う者と貴族の老人

「大丈夫だよ エドモンドにマリアン」

海のような青い瞳 優しい笑顔をして微笑む 魔物の吟遊詩人


「ママやパパの処まで送ってあげる

二人は 逃げる船に乗り込んだ もうすぐ出発だよ」


「行くよ エドモンドにマリアン」


これは魔物 綺麗な顔をした魔物の少年


美しい姿をした魔物の吟遊詩人・・

しかし、助けてくれた吟遊詩人の言葉に こくりと頷く幼い兄妹


彼は妹の方を抱き上げてから次に兄の方の手をつなぐ


当たり前のように 戦場を堂々と歩みゆく

誰一人 まるで彼等に気がついていないようだった


「ああ、あれは聖ヨハネ騎士団とチュートン(ドイツ)騎士団

テンプル騎士団の騎士団の衣の戦死者、沢山死んだみたいだ 王国の兵士達も」

「チュートン騎士団もだけど」


「・・テンプル騎士団と聖ヨハネ騎士団

騎士団の者達も大勢死んだ 壊滅的だ どちらの総長も瀕死の重傷か」

そっと呟く 一瞬、金色の瞳をして 魔物の少年が呟いた。


「百年前・・・」


「今回は百年前のイスラムの英雄サラーフ・アッデーンと違う 

 彼は異国の敵の民にも優しかった リチャード獅子心王の好敵手」


「昔の『思慮深く情け深い、情の深いサラデイン』と違い、『マルムード』の宗主達は かなり残虐だね」


「盾となった守り手の騎士達に国の兵士達の犠牲者たち」「民人、哀れな羊たち」



避難する人々で港は大混乱中 多くの船に人を乗せて逃げ出す避難民たち

それを怪我人たちを手当する者達 警護する者達 

生き残りの騎士団たちに兵士達も・・


船の中で両親達は はぐれてしまった

愛する子供達、エドモンドとマリアンを想い涙を流していた。


「パパ、ママ」子供達の声に振り返る


「お前たち 無事だったのか?

しかし どうやって」子供達を抱きしめながら問いかける


「・・・覚えてない」きょとんとする子供達 幼い兄妹

エドモンドとマリアン


吸血鬼、魔物の少年が子供達、幼い兄妹の記憶を消し去ったのだ



時は流れてゆく 過ぎ去ってしまう


いつものように吟遊詩人の少年は酒場や祭りで歌を謡っているが 


今はアドベントの時間 祝福と雪の季節の時間


間もなくクリスマスイヴが訪れる 市場(マーケット)が開かれ

彼が賑やかで美しい街角で歌っている時だった。


一人の貴族の老人が 彼を潤んだ瞳で見ていた


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