第18話 混迷メリーゴーランド


「まさか、蓮ちゃんと休憩時間がまったく同じだったなんて……っ! すごい偶然だね!」

(あはは……偶然ではないんだけどね)


「どこから回ろうかなぁ。蓮ちゃんはどこか行きたいところ、ある?」

「えっと。後輩が、面白そうな場所を教えてくれたんだけど……」

「そうなんだ、じゃあ、そこ行こうか」





「……いたいた。アヤネ、探したのよ!」


「えっ、マ、ママ?」

(あっちから歩いてくる人、アヤネちゃんのお母さん?)



「どうして……? ママ、来てたの?」

「そりゃ来るわよ、親だもの。なかなかキレイな学校じゃない。アヤネも逢杏なんかじゃなくて、もっと良い学校を選べたのにねえ……」

「ママ! 友達の前だよ!」

「あ、あら、気を悪くしないでね。逢杏学園が悪いって言ったわけじゃないのよ」

(いや、思いっきり下に見てましたが……)



「それで、アヤネはこれからどこへ行くの?」

「今は休憩時間だから、友達と企画を見に……」

「あら、休憩中だったの。じゃあ、ママも着いていっていいわよね?」


「え?」

(えっ)


「ママ、やめてよ! せっかく友達と一緒にいるのに……」

「友達とはいつでも一緒にいられるじゃない。ママが学校に来れる日は、今日しかないのよ」

「で、でも……!」


「……あら、ごめんなさいね、電話だわ。はい。……まあ、やっぱり来ることになったの」

「……ママ?」

「アヤネ、あなたの叔母さんも来ているみたい。駐車場にいるみたいだから、迎えに行ってくるわね」

「じゃあ、私たち行くからね!」

「あ、アヤネ! ……もう、皆で回れば良かったのに」









「蓮ちゃん、本当にごめん! お母さんに悪気はないの……」

「気にしてないよ。アヤネちゃん、愛されてるんだね」


(そっか、私だけじゃなくて、家族の皆もアヤネちゃんが好きなんだよね)


(そう考えたら私は、アヤネちゃんの恋人にふさわしいのかな。私なんて逢杏での成績は並だし取り柄なんてないし……)


(倉庫での出来事に浮かれて、私、舞い上がってただけなのかも……)


(だめだ、またネガティブな思考になっちゃう)


「…………」

「…………蓮ちゃん?」

「はっ! ご、ごめん」


「やっぱり、お母さん失礼だったよね。本当にごめんね」

「あ、ううん、そうじゃなくて……」

「それじゃ、何を気にしてるの?」


「え、」

「……もしかして、倉庫でのこと……?」



(そういえば、ちゃんとその話をしてなかった……! 環たちの誤解はちゃんと解けたって言って安心させなきゃ)


「う、うん、その話なんだけど、」

「……そっか。蓮ちゃん」

「な、なに?」

「少し、場所を変えない?」


「いい、けど」

「ごめん、企画に行く途中だったのに、こんなこと言って……でも、先に話しておかないと、どうしても頭の中がいっぱいで、うまく楽しめなさそうだから……」


(えっ? えっどうしたの? まさか、倉庫での出来事が嫌な記憶になってるとか……? アヤネちゃんすごく強張った顔してるし、どうしよう、悪い方に考えちゃう)


「アヤネ、ちゃん……?」

「蓮ちゃん、あのね。二人だけで話せる場所に、行きたい」









(……屋上への階段……の、最上階)


「さすがに、屋上には出れないみたいだね。あぶないもんね」

「アヤネちゃん、この場所は……」

「準備中に校舎内をあちこち行く機会があったから、見つけたの。下の階は使われてない部室しかないから、誰もいないと思う。外はお祭りでも、ここは静かだね。こわいくらい」


(アヤネちゃん……?)



「蓮ちゃん……わたし、ね」


「あの倉庫で蓮ちゃんと二人きりになった時……すごく嬉しかったの」





「え」





「蓮ちゃんとなら、またああなっても良いって……ああ、でも、そんなことばっかり考えてるわけじゃなくて、っ」


「小さい頃から、憧れてた。大好きだった。そして今も、好き」


「だから……蓮ちゃんさえ良ければ、わたしを、」





恋人にしてください。





「私、ずっと蓮ちゃんのことが好きだったの……!」









「それは……っ、」


「私なんかに……もったいないよ」



(私も、アヤネちゃんが好き)


(そう言いたいはずなのに)


(アヤネちゃんが、私を好きって言ってくれて)


(死ねるくらい嬉しいはずなのに)



(……なんで……っ、こんなに心が痛いの……)

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