欠陥品 8

「人間ですよ……」


 改めて、松雪は小田に向かって言葉を放つ。


「小田さんは、人間です」


 寂しそうな笑顔をして小田は返してきた。


「ありがとうございます。嬉しいです。でも異常者なんです。統合失調症の症状でこんな時にも頭に変な命令を受けてます。今は右手で左足首を掴まないと死ぬって命令です」


「そんな……」


 松雪は理解が追いつかなくて何も言えなかった。


「死のうってのに、しなきゃ死ぬって命令おかしいですよね。普段は無視してるこの命令も、疲れていたり油断してるとやっちゃうんですよ。気持ち悪いですよね」


 小田は続けて言う。


「気持ち悪いんですよ。僕、自分自身が許せないし、気持ち悪いし、殺してやりたい。だから……、お願いします。もう終わりにしたいんです」


「そうですか」


「勿論医者にも死にたいって相談しましたけど、返ってきた言葉に僕は絶望しました。希死念慮があるなら入院しか無いって。またあの閉鎖病棟に入院しか道がないなんて、死にたいって言う事すら許されないだなんて」


 そこまで言い切ると小田の首にハッキリと手形が浮かび上がった。


 松雪は口をパクパクさせて何かを言おうとしたが、何も言葉が出てこないでいる。


「松雪さん、教えてください。僕はもう死ねますか」


「えっと、その」


 そうだ、小田はもう死ねる。


「はい」


 小さく松雪が言った。


「よかった、よかった、これでやっと死ねるんですね」


 涙を拭いて小田はニコリと笑う。


「松雪さん、お願いします」


 半分現実感が無いまま、松雪は席を立った。


 そして、じわりじわりと小田の元へ歩み寄る。そうだ、死を望む人を死なせてあげて何が悪いんだ。自分に言い聞かせる。


「小田さん、本当に良いんですね」


「はい、お願いします」


 そう言って小田は目を瞑り、松雪は首元に手を伸ばした。

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