第28話 シュッとした服
怪異退治組合やつか支部に『シュッとした服』が届けられた。
荷物に添えられていた手紙には『誰が着てもシュッとして見える。怪異ではないか』との
シュッとして見える、というのは一部地方で使われている『かっこいい』とか『
もちろん服装というのは人によって似あう似合わないがあるので、普通に考えれば誰が着ても『シュッとしている』なんてことはありえないだろう。
組合にはこういった届け物がよく来る。
大半は髪が伸び続ける不気味な人形だとか、捨てても戻ってくる呪われた鏡だとか、その手のものだ。近隣の学校でチェーンメールが流行したときなどは、何十通もの不幸の手紙が届けられるので困りものだ。
怪異退治組合はたしかに怪異退治の専門組織ではあるのだが、呪いを解いたりだとか、いわゆる
つまり、狩人にも『見える』タイプと、『見えない』タイプがいるのである。
さて、シュッとした服がやって来た時、事務所にいたのは
手紙の内容から呪いや霊障の類ではなさそうだと判断した相模くんと賀田さんは、ダンボール箱を開いて中身を確かめた。
そこにはどこからどう見ても
一見すると、白い毛皮でできたロングコートだ。
ただし毛皮といっても、テンやら何やらの高級毛皮ではなく、おばあちゃんの家で飼われているくたびれたシーズー犬のようなモサモサした毛である。
「これは……本当にひどい……。確かに、これを着てもシュッとして見えるなら、怪異と言えなくもないかもしれませんね」
日頃つとめて悪口を言わないようにしている相模くんがフォローしきれないほどのひどさだった。
「え……もしかして、これを着なくちゃいけないんですか……?」
賀田さんは思いっきり嫌そうに眉をひそめた。
「……そういうことになりますかね……」
そこまで考えての発言ではなかったが、これがただのイタズラで怪異でも何でもないならば、まじめに取り扱って雑用を増やす必要はない。
怪異かどうか、外部の専門機関に鑑定を頼むにも、費用というものがかかるのだ。
「ただいま戻りましたー!」
そのとき、ちょうど御用聞きに出かけていた狩人の
相模くんと賀田さんの心がひとつになった瞬間であった。
「的矢さん、嫌だと思いますけど、これを着てみてくれませんか?」
「いいですよ」
「え? いいんですか……?」
的矢樹は二つ返事で『シュッとした服』を着てくれた。
しかもただ着てくれただけではなかった。
何故か上半身裸になってシーズーの毛皮(暫定)を素肌の上にまとい、本職顔負けなモデル歩きを
フリンジをなびかせながら玄関まで歩いて行き、前髪をかきあげるポーズを見せてターンをキメる。そして
すでに賀田さんは耐えきれなくなってカウンターの下で震えていた。
「どうですか? 相模さん。シュッとしてますか?」
「うーん……。なんでそんな本格的なモデルウォークを披露したんですか?」
「俺、お金とかにはあまり執着がないんですけど、とにかく人に褒められたいタイプなんですよね。なんで、全ての物事に対して全力投球したいんです。ちなみにウォーキングは二十歳の頃、本格的なレッスンを受けました」
雑誌の表紙みたいな流し目を披露しながら言った。
的矢樹といえば、この業界では顔がいいことで知られている。
ジャニーズみたいに女性っぽい感じじゃなく、男からみても
「すごく……かっこいいです……」
だからこそ服がシュッとして見えるかどうかは謎だ。
しばらくファッションショーを楽しんだ後、的矢樹は服を着て、相模くんは毛皮を箱にしまった。
「結局、シュッとして見えるかどうかはわかりませんでしたね」
そのとき突然、狩人の顔に戻った的矢は、やけに真面目な声つきで言った。
「あんまり小煩いことは言いたくないんですけど、今度からこういうの届いても触らないほうがいいですよ」
「なんでですか?」
「面白がらせて触らせて、それがきっかけでついてきちゃうヤツも結構いるので」
「あ……ついてきちゃうって、まさか」
「そのまさかでーす」
相模くんは青くなる。
血の気が引くとはまさにこのことだ。
何を隠そう、的矢樹はやつかでは稀少な『見える』タイプの狩人なのである。
これ以降、組合に届いた謎の宅配物は『的矢案件』として別に振り分けておくことになった。
ちなみに最近、的矢樹はやつかの町を歩き回り個別に家庭訪問し、怪異の発生率を調べ、リスク評価をする仕事に従事しているそうだ。
その裏側では、七尾支部長の密命を受け、オカルト的に『やばい場所』を調べてマッピングしているんじゃないかともっぱらの噂である。
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