第97話 鎧の戦士

翌日。


「……生き延びちまったのか」


「団長!」

「龍之介!」

 

 病室のベットで龍之介が目を覚ます。

一命をとりとめた龍之介、ぎりぎりだったが、恋のヒールによる止血が功を奏した。

もちろん伊集院の丸一日の手術による成果ではあるのだが。


「よかったよ、天道」


 天道の目が覚めた連絡をもらった伊集院が病室へと入る。

目の下にはくまができているが徹夜で手術したのがうかがえる。


 実は年が近い天道と伊集院。

10年前からあの病院に田中みどりのために通い続けた天道、そしてみどりの担当医。

二人はいつしか友人関係へ至るのも自然なことだった。


「あぁ、お前がやってくれたのか。ふっ。姉弟揃って世話になるな」


「なに、代金はがっぽりもらうよ。お前は稼ぎがいいからな」


 目覚めた龍之介を見て田中は席を立つ。


「やりとげてくれてありがとう龍之介、フェンリルはあのまま絶命したよ。私は戻る、まだ何も解決していないからね」


「すんません、一世さん。しばらくは戦えそうにないですわ」


「いや、ほんとによくやってくれた。今のところあの蛇、ヨルムンガンドの被害はそれほど出ていない。まぁ埼玉は壊滅しかけているが…」


 あれから多くの航空戦力がヨルムンガンドの周りを飛び回る。

近づきすぎてそのまま墜落させられたものもいる、しかし時間は稼げていたし人的被害は少ない。


「されから佐々木さんもまだ頑張ってくれている。ほんとにあの人には頭が上がらないよ」


「はは、爺さん全盛期かよ」


 あれから休まず佐々木一心は天道や竿人の穴を埋めるがごとく駆けずり回る。

闘うことが楽しくて仕方ないとでも言わんばかりの剣豪は、まるで若返ったかのように強かった。


「団長、お揃いっすね!」


 そういって片手を失った竿人が同様に片手を失った龍之介を見て笑う。


「こんな悲しいお揃いがあるか…」


 天道も片手を失った。

どちらも牙でかみ砕かれてぐちゃぐちゃなのでくっつけることは難しかった。


「命に別状はないから一旦置いておいた。冷凍してあるから落ち着いたらくっつけれるだろう」


 それをみた伊集院が答える。

今は多くの患者が命の瀬戸際、ならば生命活動に問題ない部分に費やす時間がない。


「剣也君が着たらあの指輪借りましょ! 多分くっつくでしょ。いやマジでくっつかないと辛い」


「そうだ、坊主は!?」


「まだだね、彼らが向かってから五日だ、そろそろ期限なのだが……」


◇時を同じくして剣也達。


 剣也達は69階層へと到達した。

敵は強く無傷とはいかないため、完治の指輪で回復を行いながらたどり着く。


 そしてついに、最後の部屋へ。


「やっときたね…」


「はい、速くお風呂に入りたい…」


 完治の指輪を使って疲労すら回復していた二人。

持ってきた荷物の中には体を綺麗にする道具も多いが、やはりレイナとしてはお風呂に入りたい。


「大丈夫だと思うけど…くんくん、うんいい匂…」


「いや!」


「グヘッ!」


 レイナの匂いを嗅ごうとする剣也は吹き飛ばされる。

手加減なしなので、すごい勢いで壁に激突した。


「だめです、しばらく近づくことを禁止します」


「レイナの匂いなら汗臭くても最高さ、むしろ大歓迎だよ」


「……変態」


 好きな人の匂いなら汗臭くても嗅ぎたいよね? むしろ臭いほうが嬉しいよね。

嗅ぎたくない? 理解できない? 君は本当の愛を知らないようだ。


「ふざけてないで早く入りましょう。もう万全ですね?」


「あぁ、龍神の一撃も回復した。いよいよ最後か、頑張ろう」


 そして二人で最後の扉を開ける。

荘厳な扉が開き、巨大な空間が広がった。


ボッボッボッ…。


 次々と松明に火がともる。

青い炎が円型の部屋を灯していく。


 広さは東京ドームほどだろうか。

とても広く、見渡すばかりに武骨な石で作られた空間が広がっている。


 そしてその中央。


 一人の鎧が立つ。


「あれが最後の敵? 魔物というより…あれは」


「人?…ですか?」


 まるで西洋の鎧。

全身フルプレートの鎧が立っていた。


 二人が一歩を踏み出してその空間へと足を踏み入れる。

背後の扉がしまり、静寂が包む。


 鎧の戦士が剣を抜いた。

こちらを見て、敵と認識したのだろう。

剣を構える、まるで居合切り、そして…。


 瞬きの合間に、剣也の目の前に現れる。

その勢いのまま剣也へと切りかかる。

今までの剣也ならここで終わっていたかもしれない。

それほどの一閃。


「!?」


 しかし剣也は反応し、剣を抜いてはじき返した。


 電光石火の一撃、そしてそれを上回る反射。

その反撃に鎧の戦士はまるで驚いたように後ろへ飛ぶ。


「油断はしてないさ、さぁ」


 剣を構えて前を向く。


「やるか!」


 レイナ&剣也VS鎧の戦士の戦いが始まった。



 その鎧の戦士は強かった。


 一対一では勝ち目が薄い。

それほど全てにおいて上回られている。


 レイナよりも早く、剣也よりも強い。


(まるでアニメや漫画の戦いだな)


 音すら超えてぶつかり合う剣。

現れては、消えてを繰り返す鎧の戦士。


 しかし違和感を感じる。

鎧の戦士は、強さのわりにはなっていない。


 闘鬼に鍛えられた剣也とレイナ。

二人から見れば正直戦い方がなっていないとすら思えた。

圧倒的なステータスの暴力で殴りかかる。

かつての剣也とレイナと同じ、そんな戦いをしていた。


「レイナ、やるぞ」


「はい!」


 レイナと剣也がコンビネーションで決めるために仕掛ける。

レイナは背後、剣也は正面を常に狙う。

 

 闘鬼から教えてもらった戦術。

2VS1の構図を思う存分使う。


「くっ!」


 鎧の戦士から初めて声が漏れる。


 剣戟の嵐が続く。

人の枠を外れた戦いは、激化しそして徐々に押していた。


「いけるぞ!」

「はい!」


 しばらく続いたその戦いも終わりが近づく。


「剣也君!」


 そしてついにそのタイミングがやってきた。


(いける…!)


「ナイス! レイナ!」


 レイナに体勢を崩されたその鎧の戦士。

今ならいけると判断した剣也は最強の一撃を放つ。


「ステータス錬金!」


◆ステータス

攻撃力:0(+30000)▼+72000

防御力:0(+35000)▼ー35000

素早さ:0(+17000)▼ー17000

知 力:0(+20000)▼ー20000


 攻撃力実に10万越え、そして。


「龍神の一撃!」


 攻撃力2倍。


 20万を超える破壊の一撃を振りかぶる。


「!?」


 光の粒子が集まった。

その光輝く剣を見て、鎧の戦士は悟った。


 それは受けることすら不可能、その一撃は破壊の一撃。

全てを切断する一閃、剣也の全身全霊全力の一撃。


 だから悟る、自分の敗北を。


「はぁぁぁ!!!」


 そして声を上げる。


 何度も聞いたあの声で。


「ちょ、ちょっと待ってストップストップ!! ストーーーーップ!!」


「……はぁ?」


 勢いあまって剣也は剣を振り下ろす。

何とか軌道をずらすことだけは成功した。

もし作戦なら成功だろう、日に一度の必殺技は無散した。


 しかし受けようとした剣は断ち切られ、鎧は砕けた。


 そのまま尻餅をついた鎧の戦士。


 鎧が砕けてゆっくりと割れる。

砕けた鎧から現れたのは、魔物なんかではなく。


「はぁ!?」

「うそ…」


「いててーー」


 頭をさすりながら出てきたのは。


「お、女の子!?」


 燃えるような赤い髪に、赤い瞳。

年は剣也達とそれほど変わらないだろう。

しかしまぎれもなく人だった。


「おー頭が割れるーー……つ、強いですね、剣也さん」


「え? え? 意味が分からない。え?」


 困惑する剣也。

まるで自分を知っているかのようなその少女の口ぶり。


 しかし剣也は彼女を知らない。


「レイナの知り合い?」


「いえ、多分……初対面のはずです」


 剣也は頭を抱える少女を見て剣をしまう。

毒気が抜かれてもう戦う気力もなくなった。

涙目になっている少女が上目遣いで剣也を見つめる。


(あ、結構可愛い……タイプだ)


 涙目ながらも頭をさする少女の顔はとても整っている。

燃えるような赤い髪と瞳は見るものをドキドキさせるほど情熱の赤。


 その少女を見つめる剣也を見つめる少女。


じとーっ


「レイナ?」


「今剣也君、何を思ってましたか」


 レイナが剣也をじとーっとして目で見る。

妙なところで勘が鋭いレイナ。


「え!? いや、何も?」


じとーっ


(その目やめてぇ!)


 逃げるように、話を変えようと少女に話しかける。

膝をついて目線を合わせてその燃えるような瞳に目を合わせて話しかける。


「えーっと、色々説明してもらってもいいかな?」


「そ、そうですね、とりあえず落ち着けるところに行きましょうか。すべてお話します」


 少女が手をかざすとゲートが現れた。


「君は一体……」


 困惑する剣也とレイナ。

でもこの少女が自分達を騙そうとしてるとは思えなかった。

本当はだめなのだろうが、信じてゲートをくぐる。


 そしてゲートを通るとある程度の広さの部屋へ。


 中央には巨大な砂時計。

10メートルほどはあるだろうか、赤い砂がゆっくりと下に落ちている。


 しかし上半分にはすでにほとんど砂がない。

全ての砂が落ち切るのも時間の問題だろう。


 その砂時計を背後にして、少女はこちらを振り返る。


「改めまして、よくここまで来てくれました。錬金術師 御剣剣也さん。そして今代の勇者 蒼井レイナさん!」


「教えてくれる? 君がだれなのか」


「はい、皆さんの時代にどこまで話が伝わっているかわかりませんが……この名前ならわかりますか?」


 そして少女は真っ赤な瞳と、真っ赤な髪をなびかせる。

こちらをまっすぐと見据えて、はっきりと自分の名前を告げた。


「私の名前はユミル。かつて勇者と呼ばれていたものです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る