第43話 熱々な関係? 熱々な日常?

「服を…脱いでください」


「え? えぇぇ!? ど、どうして!?」


「溜まってますよね、剣也君。私がしてあげますから、私頑張りますから…」


「な、な! ダメだよレイナ! そんなのはまだ駄目だ!」


(そ、そんなこと! …ほんとに? いいんですか?)


 剣也は大声を上げて後ずさる。

するとレイナが首をかしげる。


「血が溜まった包帯を変えようとしたんですが…ダメですか?」


(はい! そんなこったろうと思いました。ぬか喜びです。残念だったね。みんな!)


 レイナが茶色い紙袋から取り出したのは、薬局の包帯だった。

決して中身を隠す必要があるためのものなんかじゃなかった、いつものレイナの言葉足らずなミスリード。


「い、いや、ダメじゃない! 全然だめじゃないよ! じゃ、じゃあ変えてもらおうかな~」


 僕は、何事もなかったのように空を見ながら答える。

低い天井しか見えないが、とりあえず天井のシミの数でも数えて心を落ち着けよう。

1、2、3っとダメだシミが多すぎるわ、なんだこのボロ家。


 そしてレイナは、再度心を落ち着ける。

決心したように僕を見る。


「レイナ、血がダメならいいんだよ? 変えなくて」


「いいえ、私は向き合わないといけません、逃げてきた過去から」


 少女は少年から勇気をもらった。

あのとき死なないと言ってくれた少年の言葉に少女は勇気をもらい過去と向き合うと決めた。


 そしてレイナは勢いで僕の服を脱がす。

そしてゆっくりと包帯を取り換えようとする。

血がちょっとだけ滲んでいた。


「はぁはぁはぁ」


 レイナは、顔を赤くしながら息を乱す。

剣也の傷を、滲む血を見て呼吸が乱れる。


 それでも出血量は多くないため耐えることができた。

何とか包帯を握り取り換えようと包帯を握る。

とはいえ傷も塞がりつつあるのかところどころかさぶたになっていた。


 ゆっくりと、目をつぶりながらレイナは包帯を巻きだした。

そう目をつぶりながら…。


(うん、全然巻けてないね)


「レイナ、巻けてない」


「すみません」


「レイナ、そこ腰だ」


「す、すみません」


 それでも何度も巻きなおして、なんとか形になった。


「ありがとう、まぁこれならギリギリいけるかな?」


「すみません、お時間を取らせました」


 すみませんと、レイナは謝る。


「……ねぇ、レイナ。昔何があったかをきいてもいい?」


 僕はレイナの過去を聞こうとした。

するとレイナは、沈黙の後口を開く。


「……すみません。もう少し待ってください。もう少し…もう少しだけ」


 まだレイナの心の準備ができていないようだ。

申し訳なさそうに目をそらしながら待ってほしいと僕に告げる。


「無理に話す必要はないよ!」


「いいえ、あなたには聞いてもらいたい。あの時死なないと言ってくれたあなたに」


 思い出すのはゴブリンキングとの戦闘。

胸に傷を負って大量の血を流した僕を見てレイナはフラッシュバックした。

動けなくなったレイナに僕が掛けた言葉が『僕は死なない』だった。


「わかった…待つよ。いつまでも」


 僕は微笑んでレイナに応える。

レイナもばつが悪そうにこくりと頷く。


ガラガラガラ


「ただいまーお兄ちゃん帰った?」

「先輩ただいまー」


「おかえり、奈々、美鈴」


 おてんば娘二人が帰ってきた。

とたんに狭い部屋が狭くなり、静かな部屋がうるさくなる。


「あー! 包帯は私が替えるっていったのに!」

「お兄ちゃん調子はどう?」


 美鈴が、包帯をかえると聞かないので、もう一度替えることになった。

正直レイナには申し訳ないが、ちゃんと巻いてほしいので助かる。


「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと痛いけどまぁ安静にしてれば大丈夫だ」


「良かった。今日はおでんにするね? 美鈴が食べたいって」


(夏の始まりかけにおでん? まぁいいけど…)


 いまは7月、夏が始まろうとする季節。


「あぁ、ありがとう。季節はずれだけど、おでんは好きだからうれしいよ」


 我が家の家計は火の車だが、来月からお金が入るはずなので貯金を切り崩し普通の生活を送れている。

なのでおでんぐらいなら全然問題ない。



 そして始まるおでん会。

そして僕は美鈴の思惑を理解した。


「ハイ先輩、厚揚げー」


「あつ! あっつ! ちょっと冷まして」


 なんでこんな芸人みたいなことをしないといけないんだと思いながら僕は美鈴におでんを食べさせられている。


「えーふぅふぅしてほしいんでしゅか? してほちいなら『してください、ママ』って言ってくだちゃいね?」


 なぜか赤ちゃん言葉になる美鈴、バブみを感じる。

腕を上げようとすると、痛みがある僕はなすすべなく、おでんを食べさせられている。熱い!

なんだこのプレイは、バブみを感じる。熱い!


「もう美鈴! お兄ちゃんに意地悪しない!」


「えー! このためにおでんにしたのにー」


 なんて奴だ、動けるようになったらお仕置きしてやらないと。

だからとりあえず、ふぅふぅしてくだちゃい。


 その美鈴と僕の様子を見てレイナが真似をする。


「ふぅふぅ? 息をかければいいんですか?」


 そういって、熱々のがんもをふぅふぅするレイナ。

うん、なんでがんも? 一番熱いやつだよね? 中の汁があっつあつだよね?


「はい、剣也君どうぞ」


 トップモデルのふぅふぅしたがんも…。

なんて美味しそうなんだ。

でも確実に熱い、どうする、僕。


 するとレイナが悲しそうに下を向き、がんもを器に戻そうとする。


「私がふぅふぅしたのなんていらない…ですよね。ごめんなさい」 

 

「いる! いるから! レイナのふぅふぅしたがんも食べたいなぁ!」


 僕は慌ててがんもを要求する。

なんて悲しそうな顔と熱そうながんもなんだ。


 それを聞いて、心なしか明るくなるレイナ、そして運ばれるがんも、やけどする僕の口。

がんもの中からあふれ出したおでんの汁が僕の口を焼く。

表面はふぅふぅしても中は熱々だった、予想通りくそあちぃ。


 黒龍の羽衣の防御力はどこに行った? ダメージ軽減してくれ。

レア度★4も大したことないな、がんも程度のダメージも軽減できないとは。


「あ、そういえばお兄ちゃん忘れてないよね? 明日土曜だよ?」


「ん? なんかあったけ?」


 熱々のおでんをハフハフしながら僕は何かあったかと思い出そうとする。


「もう! 新しいお家見に行くんでしょ!」


 そうだった。

明日は土曜日、不動産を紹介してもらうんだった。



ありえないほど広い部屋に案内された僕ら。


「ここって…いくらになるんですか」


「はい! えーこちらの物件4億8000万になります」


 僕はめまいがして膝をついた。

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