第165話 ジ〇ーズ?


「うおぉぉぉぉっ!?!?」


 突如としてこちらに向かって飛びかかってきたサメ型の魔物に、俺は軽く悲鳴を上げながらも攻撃し撃退する。そんな情けない姿をスリーの前で晒してしまうと、彼女は少し首をかしげながら問いかけてきた


「マスター?脈拍数が上昇していますが、いかがしましたか?」


「ちょ、ちょっとな。こういう姿の魔物は……苦手でな。」


「そうでしたか、ではスリーが対処しましょうか?」


「い、いや大丈夫だ。」


 ほぅ……と気持ちを落ち着かせるために一つ大きく息を吐き出すと、俺は下半身を固定して構えをとった。


 そして襲い来る大量のサメ型の魔物を無心になって撃退していく。一心不乱に魔物を倒していると、辺りには静けさが戻っていた。


「お見事ですマスター。日々の訓練の成果が出ているようですね。」


「まぁ毎日あれだけ扱かれてればな。成果が出ないほうがおかしいだろ。」


 毎日ぶっ倒れるまで扱かれるスリーとの戦闘訓練のおかげで、俺の戦闘能力は少しずつ磨かれていた。そのかいあってこの程度の単調な攻撃しか仕掛けてこないような魔物なら片手間で倒せるようになった。

 

「さて、これでいったんは終わりか。」


 それにしてもこの魔物……サメのような姿形をしているだけあって、きっちりと鮫肌だったな。経験値になって消えなければ、このサメ皮で山葵下ろしでも造れたかもしれない。でもわざわざ自分でこいつを海に倒しに行くのは御免だ。わざわざトラウマを抱えてる魔物をまた見に行く必要はない。


「マスター、次の階層へと続く階段はあちらの方向にあるようです。」


「ん、了解。じゃあ魔物がまた現れる前にとっとと行こう。」


「はいマスター。」


 水に足を絡めとられながらも、俺とスリーは次の階層へと続く階段がある方へと歩きだす。その途中、俺はふとあることが気になってスリーに問いかけた。


「そういえば、スリーとかナインは……海水とかに足をつけても大丈夫なのか?」


 スリーとナインはあくまでも人間ではなくアンドロイドだ。一部が機械で作られている彼女たちは海水に触れても大丈夫なのだろうか?とふと疑問になったのだ。


 すると、スリーは淡々と答える。


「問題ありません。ボディ外装は人間と同じ物質で構成されていますので、海水で錆びたりするようなことはありません。」


「へぇ……。」


「たとえ外傷を負ったとしても内部の機械はミラ博士の作ったものでしか構成されていませんので、錆びることもなければ腐食することもありません。」


「体の内部自体がアーティファクトみたいなものって感じで間違いないか?」


「そういう認識で間違いありません。ミラ博士の生み出したものを総称してアーティファクトと呼ぶのなら、スリー達もアーティファクトと呼ばれる存在に該当するのでしょう。」


「そうか。」


 そんな話をしている間にもあっという間に次の階層へと続く階段が見えてきた。


「あそこか。」


 辺りにゲートガーディアンの姿はない。ならこのまま進めそうだ。


「スリー、アーティファクトの反応は?」


「この一つ下の階層に水の狩人があり、最終階層に人魚のイヤリングがあるようです。」


「ってことは結局、最終階層まで攻略しないといけないわけか。」


 最終階層を攻略するってことは、ボスも倒さないといけないってことだ。今思えば、今まで攻略してきたダンジョンはナインとスリーがボスとして配置されていたため、本来のダンジョンのボスと対面するのはこれが初めてだな。


「じゃあさっさと次の階層に行って水の狩人ってアーティファクトを見つけようか。」


 そして俺とスリーは次の階層へと続く階段を下った。すると、今度階段を下った先に現れたのは地面から巨大な水晶のような鉱石が突き出しているなんとも不思議な景色だった。


「ダンジョンの中はやっぱりいろんな空間が混ざってるんだな。」


「この階層のゲートガーディアンが水の狩人を護っているようですので、倒しましょう。」


「ははぁ、なるほどな。」


 ゲートガーディアンがアーティファクトを護ってるのか。ならぶっ倒さないとな。できればそれでレベルが上がってくれるとありがたいんだが。


 水浸しの階層を抜けた俺は、腕に魔神の腕輪をはめた。するとスリーがまた問いかけてきた。


「先ほどの魔物にその雷撃を喰らわせればもっと簡単に倒せていたと思いますが、なぜお使いにならなかったのですか?」


「万が一使って自分に感電したら元も子もないだろ?」


 昔に雷は水面を伝うだけで水中には伝わらないと聞いたことがある。つまり水面上にいた俺たちには感電するリスクがあったというわけだ。


「お言葉を返すようですがマスター、その腕輪をはめている限り自分は感電したりはしませんよ?」


「え?」


「初期に作られたものとはいえ、ミラ博士が作ったアーティファクトの記録リストに登録されているものです。欠陥はありません。」


「じゃあ使えばよかった……。」


 わざわざあのザラザラな鮫肌に拳をこすりつける必要はなかったじゃないか。しかも何なら水面にヒレを出しているアイツらなら一気に一網打尽にできた可能性まである。


 そういうことはもっと早く言ってほしかったなぁ。


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