第097話 解体ショー


 俺が夕食の準備を整えていると、廊下の奥からワイワイと楽しそうな声が聞こえてきた。どうやらアルマ様たちが帰ってきたみたいだ。


 さてさて優勝は誰になったんだろうなと思っていると、厨房の中にアルマ様たちが飛び込んできた。


「カオルただいまっ!!アルマとカナン優勝したよ!!」


「我も3位だったのだ。」


「アルマ様とカナンの二人が優勝で、ラピスが3位?」


「うん!!あのね、アルマとカナンの釣った数が同じだったから二人とも優勝だったんだよ!!」


「そうだったんですね、二人とも優勝おめでとうございます。ラピスも3位に食い込んでよく頑張ったな。」


「えへへ~、だからねっだからねっカオル!!今日はすっごいご馳走にしてほしいんだけど……ダメ……かな?」


 そう頼まれて断る俺ではない。


「もちろんです。腕によりをかけて作りましょう。」


「やったやった!!け、ケーキもいい?」


「もちろんです。」


 俺がうなずくと、喜びのあまりアルマ様はカナンとハイタッチする。


『カオルさんありがとうございます。』


 カナンはお礼の言葉が書かれたノートをこちらに見せてきた。


「いいんだよ。お祝いの時は盛大に盛り上げないとな。」


「カオルよっ!!むろん我にも作ってくれるな!?」


「あぁ、除け者になんてしないよ。」


「むふふふふふふふ♪頑張った甲斐があったのだ。」


 そして俺が再び調理を再開すると、ジャックが厨房に来訪してきた。


「カオル様。」


「はい?どうかしましたか?」


「実は……。」


 ジャックが用件を言う前に彼のことを突き飛ばしてリルとカーラの二人が乱入してきたのだ。


「やっほ~!!話は聞いたよん。私たちもそのご馳走食べたいな~。あ、もちろんお酒は持参してきたからね。これ見てよ。なんか北の大地で作られた珍しいお酒なんだってさ。」


「り、リル……賞品でもらったそれをもう開けるつもりなのかい?」


「だってお酒ってのは飲むためにあるんだし~?コレクションにして眠らせとくなんてもったいないよ~。」


「はぁまぁ、あんたらしいっちゃあんたらしいねぇ。」


 そう話している二人の横を通ってジャックがこちらに近づいてきた。


「要は先ほどリル様が言っていた通りです。今日はカオル様の作る料理の席に同席したいとのことでして……。」


「大丈夫ですよ。食材はたくさんあるので。」


「ひゅぅ~!!ほら言ったじゃんジャック、彼ならオッケーしてくれるってさ。ということで~お邪魔しま~す。」


「す、すまないねぇカオル。アタシでもリルのこと止められなくてさ。」


 席に着く前にカーラは申し訳なさそうにそう言った。


「全然大丈夫ですよ、今日はちょうど食べきれないぐらい食材があったんです。」


「それってもしかして例のやつかい?」


「そうです。」


 カーラだけは知っている、俺が今日の食材として何を用意しているのかを……。


 サラダなどの仕込みを終えた俺は、皆の目の前に自分の身長よりも大きなまな板を置いた。


「それじゃあ今からブレードマーリンの解体ショーを始めます。」


 そして収納袋からブレードマーリンを取り出してまな板の上に置く。その巨体のせいで尻尾と頭がまな板から飛び出してしまっているが、まぁどっちにしろ落とさないといけないから問題はない。


「何が始まるんだろ~。」


『多分マグロの解体ショーみたいなやつかも?』


「それじゃあいきますね。」


 流石にこいつには今の手持ちの包丁じゃ刃が立たない。だからアーティファクトのこいつを使って捌く。


 ナイフを頭の付け根にそっと当てると、沈み込むようにブレードマーリンの中へと入っていく。そしてあっさりと骨をも切断し、頭が外れた。


「まずこれがブレードマーリンのお頭です。」


「「「おぉ~……。」」」


 台の隅にそれを置いて、次に取りかかる。


「次はいよいよ身を下ろします。」


 こういうデカイ魚は5枚に下ろした方が楽っちゃ楽だが、見栄えやインパクトは3枚下ろしの方が強い。だから今回は3枚に下ろすぞ。


 背中側と腹側にアーティファクトのナイフを滑らせ、最後にピッ……と真ん中の血合い骨を断ち切るように一閃すると、ずるりと身が外れる。


「いよっ!!コレがブレードマーリンの半身です!!」


「「「おおぉ~!!」」」


「すごいすご~い!!」


『カオルさんすごいです。』


 一枚下ろし終えるとアルマ様たちから歓声と拍手が送られた。


 そして反対側も同じように下ろし、巨大な半身が2枚と太い骨部分が1枚……計3枚に下ろすことができた。そこで一息ついていると、ラピスが疑問に思ったのかあることを問いかけてきた。


「のぉ、カオルよ。その真ん中の骨はどうするのだ?我には随分肉がついているように見えるぞ?」


「もちろん、これも余さず使うさ。」


 ラピスの問いかけに、にっと笑うと俺は人数分のスプーンを手に持って皆に手渡した。


「それじゃあ今から皆さんには、この骨についた肉をこうやって……。」


 中落ちの肉をスプーンでこそぎおとして見せると、アルマ様達は目を輝かせた。


「こそぎおとしてもらいます。自分がこそぎおとした分だけ食べられるので、頑張って下さいね。」


「おぉ~!!それは良い余興だ!!」


『楽しそうです。』


「アルマもたくさんとるよ~!!」


「あははっ♪ブレードマーリンの肉なんて一生のうちに食べることなんてそうそうないだろうからね。私も頑張ろっかな。」


「あ、アタシも……が、頑張るよ。」


 そして合図とともにみんなは一斉に中落ちをこそぎ始めた。


 さて、ここで時間稼ぎしてる間にパパっと料理を仕上げよう。

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