第085話 アルマ様の嫉妬
カーラにカナンの封印を解除するための魔法をかけてもらった後、魔王城へと戻ると……城門の前でぷっくりと頬を膨らませて、いかにも不機嫌そうなアルマ様が待っていた。
「やっと帰って来たねカオル~?」
「あ、アルマ様?」
「アルマのこと城に置いて、カナンと二人でどこ行ってたのさ?」
『アルマちゃん、誤解だよ。カオルさんはボクの封印を解くために魔女さんのところに連れて行ってくれたの。』
「ふ~ん?まぁカナンがそういうならそうなのかな~。でもアルマも一緒に連れてってほしかったなぁ~。」
「次はしっかりと声をかけますので……。」
「約束だからね~?絶対、絶対だよ?」
「はい、約束します。」
そう約束するとアルマ様は機嫌を直したのか少し笑って頷いた。
「なら今日のおやつの時間生クリームたっぷりのケーキ作ってくれたら許してあげる。」
「わかりました。」
「えへへ、やった~!!それじゃ約束だからね。」
すっかり上機嫌になったアルマ様はスキップしながら城の中へと戻っていった。それを眺めていたカナンはノートにさらさらと何かを書くと、こちらに見せてきた。
『なんかごめんなさい。』
「謝ることじゃないさ。アルマ様に報告を怠った俺の責任だ。おやつの時間にケーキを作るだけで許してくれるなら安いもんさ。」
おやつの時間に何を要求されてもいいようにすぽっじきじとかは作って保存庫に放り込んであるからな。ケーキとかならすぐに作れる。ただまぁ生クリームは泡立てないといけないからそれだけが手間ってぐらいか。
「さてっと、まぁまだ昼食まで時間があるし少し部屋でゆっくりしようか。」
そしてカナンを連れて自室に戻り、紅茶を飲みながらゆっくりとしていると、ふとカナンがノートにさらさらと何かを書き始めた。
『そういえばカオルさんも日本人みたいですけど、どうやってこの世界に来たんですか?』
「あぁ、俺はジャックさんにスカウトされてこの世界に来たんだ。」
『特に日本で死んだわけでもなく……生きたままこの世界に来たんですか?』
「そういうこと。この城の部屋の中に日本とつながってる魔法陣があってな。そこで行き来できるんだ。」
『じゃあボクも日本に帰ったりできるんですか!?』
「あれを使うにはジャックさんの許可が必要だ。まぁこの城でカナンがある程度の信頼を得たら、使わせてくれるんじゃないか?」
まぁ信頼ってのは得るのに時間がかかるものだが、この城で生活してるうちに得られるだろう。何も問題を起こさなければの話だが……。
「カナンはあっちに帰りたいか?」
俺がそう問いかけると、カナンはぴたりとノートに文字を書く手を止めた。そして長考の末、ノートに一言書き記した。。
『いいえ。』
「どうしてだ?」
『ボクは前世の記憶はそのままこの世界に転生してきましたけど、あっちの世界では死んだ人間です。それに家族もいませんし。』
「そうか、なんか答えにくいことを聞いてしまったみたいですまない。」
『だいじょうぶです。逆にカオルさんは日本に帰りたいとか思ってないんですか?』
「まぁ、俺もそんなに帰りたいって願望はないな。第一俺が帰ったとしてもあんなウイルスが蔓延ってる世の中じゃ俺の仕事がない。なら俺を必要としてくれる人がいるこの世界で暮らしたほうが良いさ。あっちの世界には買い出し程度で赴くぐらいがちょうどいい。」
もともとあっちには仕事がないから、この世界に連れてきてもらったからな。それにこっちの世界の方があっちよりも面白い。
そして会話を終えると再びお互いに喋らない静寂の時間が訪れる。どうにも近くに人がいるって状況で会話が起こらない時間は気まずくて仕方ない。何か話題はないかと必死に頭を捻らせていると、気になることが一つあったこと思い出した。
「なぁカナン。キミは勇者……なんだよな?」
『そうですよ。』
「アルマ様は成長に必要な食材を食べると魔王として成長するんだが、勇者ってどうやって成長するんだ?」
『ボクは強い魔物と戦うことで勇者として少しずつ成長するみたいです。』
「ほぅ?魔物と戦うことで成長するのか。それはなかなか勇者らしいな。その魔物もイリアスとかが用意してたのか?」
『はい、死にかけの魔物をボクの前に連れてきて、とどめだけやらされてました。』
「なるほどな。」
死にかけの魔物を用意することで楽に勇者として成長させようって魂胆か。でもある程度カナンが成長したら相手にしないといけない魔物も強くなるだろうし、その方法にもいずれ限界が来るだろうな。
おそらく自分たちで用意できないレベルまで魔物が強くなったらカナンに全部任せようとしてたんだろう。
カナンを勇者として成長させるのなら俺のギルドの依頼に同伴させてもいいな。まぁそれもあとでジャックと話してみよう。勇者として成長させ、こちらの戦力にすべきか、はたまたこのまま成長させずにいるべきか。
そんなことを悩みながら、ふと時計に目を向けるとそろそろ昼食の時間が近づいてきていた。
「おっと、そろそろ昼食を仕込まないとな。カナンは何か食べたいものとかあるか?日本の食べ物でも、外国の食べ物でも基本的に何でも作れるぞ?」
『ならナポリタンが食べたいです。ボク大好物で……。』
「わかった。まかせろ。」
じゃあ特性のナポリタンを作るとするか。
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