潜降07m 柿沢自動車整備会社
「おはようございます」
「やあ、おはよう。掃除してくれてるんだ。ありがとう」
朝いちばん、最初に出勤するこの人は工場長の須田さん。
私が生まれる前からここで働いていて、お父さんの右腕であり、この会社を支えてくれている。
「まったくよ!! チンタラ走る車がいて参っちゃうよな! 」
この人は相良さん。
やっぱり私が生まれる前から働いている。
正直な人なんだけど、思ったことをすぐ口に出してしまうのが難点。
「桃ちゃん、おっはよー。今日もかわいいねっ! 」
この人は太刀さん。
前の2人よりぜんぜん若くて、頼れるお兄ちゃんって感じ。
顔もまぁ、まぁまぁかな。
口がうまく、いつも明るくお客さんに接してくれる。
そしてお父さん。
「おはよう。どうだ? ここも悪くないだろ? 」
これが今の柿沢自動車整備会社です。
あ、それと私もいた。
****
私が整備工場のオイルと排ガスの匂いにも慣れた夏の日。
「ちょっと、私、荻窪まで行ってくるね。お客さんが火災保険の満期だから」
最初は事務所内で書類処理すればいいと思っていた。
けど、なんか実習生の時にいろいろな区の契約を取った為、私は時々、外回りをすることとなった。
「ついでに『お車の調子はどうですか? 』って声かけてごらん。最初はダメでも蒔いた種は、そのうち芽をだすから」
「うん、わかった。行ってくるね」
****
(今日は日差しが強いな~。日焼けしたかなぁ.. あ、お昼買うの忘れた。 ....ん? )
「だからよー。線引く前にひとこと俺たちに言えばいいだろーが! 客の車なんだからよ! 線つけるんじゃねーよ」
「ここは駐車場ではないのですよ。これが初めてってわけではないでしょ? 」
「そんなこと言ってたら、どんな商売もできねーだろーが! 」
「そんなことありません。まずは、ちゃんとルールを守るのは基本でしょ」
私が会社に帰ると、工場前でパトカーの婦警さんと相良さんが言い合いをしていた。
「太刀さん、どうしちゃったの? 何か相良さん、もめてるんですけど」
「いやさ、パトカーが客のタイヤに線付けちゃって、こうなってるわけ」
「うるせーな! このブス! 理屈こいてんじゃねーよ!! 」
「なんですって! あんたみたいな馬鹿なブ男にブスっていわれる筋合いはないわよっ!! 」
「ブスだからブスっていったんだ」
「何よっ!! 頭悪いんじゃないの!? ふざけんじゃないわよ! ブ男! 」
(ふえ~ ..ただの痴話げんかみたい.... )
「まぁ、まぁ、まぁ、婦警さん、こんな店先で.. パトカーが止まってるだけでも、みんなが見ているのに、大きな声で人目が悪いよ。言いたいことがあったら、どうぞ事務所の中で言ってください。さ、こちらにどうぞ」
(おお、お父さん、いつになく冷静だ.. そうだ! そうだ! 人目が悪いぞ! )
「あんた達みたいな野蛮な人がいる事務所なんかに危なくて入れるわけないでしょ。ちょっと待ってなさい。今、応援呼ぶんだから」
「な、なんだと、何て言った! このバカ女!! 」
『あっ、いつものお父さんになった。まずい!...』と思った瞬間だった。
「あーっ!ダメ、お父さん!」
—ドンっ!
肩を押された婦警さんは応援を要請!
—数分後....
「逮捕だ! 逮捕だ! 」
柿沢自動車整備会社にはパトカー5台、制服警官、背広の刑事、総勢8名が狭い事務所の中に入り込んだ。
「はい!12時54分、公務執行妨害! 」
私を除いた3人を乗せたパトカーは近所の商店街を闊歩するように走る。
私は自転車であとを追いかけた。
「ふぇ~..かっこ悪い.... 」
署内の事情聴取で私がいきさつを説明すると
「まっ、うちの婦警に事情を問いただしたところ、こちらにも多少の落ち度はあったみたいだね。だが、婦警を押したことはやっぱり公務執行妨害になる。今回は反省文でいいから、しっかり交通課で謝って帰りなさい」
そして4人横一列になり....
「どうもすいませんでした」
@@@@@
『
あのね、———
おやすみなさい。また明日。』
~送信~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます