潜降02m 何の研修?

中3から始めたギター。


私のギターはFender Japanハム・シングル・ハムのストラト。

メイプルよりもローズウッドの手触りが好き。

色は紫のグラデーションだ。


友達と一緒にバンドも組んで月一でLIVEもした。


高校卒業してからも活動は続いたけど、そのうち自然消滅してしまった。


私はアルバイトをしていた楽器&CDショップにそのまま入社。


そして私が入社して2年目の春、社長からお告げが出た。


いろいろと前置きが長かったけど要約すると..

「え~、時代の波に耐えきれずSound Shopレノンは閉店することになりました。みなさんの未来が明るい事を祈ります」


「まいったな~、さすがに危ないかなって思ってたんです.. 」

「うん、毎日暇だったもんね。桃ちゃんどうするの? 」


「どうしようかな? どこかにいる私の王子様でも探そうかしら? 」

「結構余裕あるね」


「そういうしげさんは? 」

「ああ、僕は友達の紹介で新しいサブカルチャーをプロデュースする会社に入るんだ」


「え~、重さん、閉店するの知ってたの? ....そっか。重さんそっち方面好きですもんね」


(私は.. ないな.... )


・・・・・・

・・


それから2か月後、お店は閉店。


私は取りあえず臨時募集していた山根スポーツ用品店のアルバイトをすることになった。


山根スポーツ聖蹟桜ヶ丘店閉店セール。

私は臨時の閉店スタッフバックヤード担当ということ。


お店に出ないでバックヤード内に閉じこもっていいなんて楽な仕事♪

でも閉店で仕事無くしてるのにわざわざ閉店スタッフするなんて..

少し自分の境遇に自嘲してしまった。


「ねぇ、これ間違ってない。値札のタグ付けくらいちゃんとやってよ。そんなのもできないの? これ全部だから」

「あ、すいません」


ひとつ年下の社員の橋田留美さんは、私にあたりがきつい。

基本的に私へのあいさつはテレパシーで送っているようだ。


・・・・・・

・・


〔 ♪~本日はご来店ありがとうございました。お客様のまたのご来店を― 〕


「お疲れ様、今日は他店から届いた荷物多くて大変だったでしょ。でも柿沢さんのおかげで助かるよ」

このお店の店長吉村さんは凄く気を使ってくれる優しい人。


「いえいえ.... あ、橋田さん、お疲れ様です。」

「 .....っ」


「ごめんね。橋田はいつもこうなんだ。悪いね」

「いや、今日、私ミスしちゃって、忙しい中大変だったのかも」

(テレパシー、ちゃんと伝わったよ。「っ」も聞こえたし)


・・

・・・・・・


1カ月後、臨時のアルバイト期間が終わった。

吉村店長は私の働きぶりを気に入ってか山根スポーツの他店を紹介すると言ってくれたけど、私は断った。


・・・・・・

・・


—コン コン


「桃ちゃん、いる? 」

「はい。須田さん、おはようございます」


「下で社長が呼んでるよ」


(え.. 嫌だな.... なんだろう。)


「なーに? 」

「おお、来たか。いや、お前、いろんなところでアルバイトしているのなら、ここで働かないか? 」


「えー、私に整備やれっていうの? できないよ、そんなの」

「おお、整備か、それもいいな。最近は男のやる仕事に女も結構いるしな。ダンプ運転とかな。お前もそれやるか? 女整備士、かっこいいぞ」


「だからやらないって」

「冗談、冗談。まぁ事務のひとつでもやってくれればいいんだ。お前がそっちやってくれればいくらか助かるから。なぁ、須田ちゃん」


「はい。まぁ、そうですね」


「事務でいいの? ..やって大丈夫? 」

「遠慮すんな! いいぞ! 大丈夫、大丈夫」


「うん。じゃあ.... 」

「よし決まった! おまえ、安井あおい損害保険に研修行ってこいな」


「え? 研修? いつから? 」


「10日後だ。1年がんばってこい! 」


「えー! 1年も!? 」


・・・・・・

・・


1年間。

1年は365日。

でも、来年は閏年。

1日多い1年。


私の研修生活が始まる。

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