14
翌日。登校後もまだ、この七の頭に胸に、昨日の修二の声が響いていた。
『ヒスイさんが自殺を図った!』という彼の、その悲痛な声が。
さらに『…もう思い残す事はない』との、あの時のヒスイの声もまた…
そう、先に七が抱いた悪い予感が、まさに最悪の形で的中してしまったようだ。
ただ、どうやらヒスイが一命を取り留めた事が、修二は元より、もちろん七にとっても救いであった。
ちなみに、通常の市販薬や処方薬を一度に多量に服用したからといって、そうそう死ねるものではない。という事は七も、なんとなくながら知っていた。
おそらく、ヒスイもそれを承知の上で、その方法を試みたのかも知れない。死にたい、でも生きたいという葛藤の下に…ふと、七はそう思った。
また同時に七は、こうも思った。ヒスイが自殺を図った理由については、あの河原で彼女が語ってくれた、例の身の上話による
それを語るに『もう思い残す事はない』と言っただけに…
しかし、こうなると七は、もう誰かに
…そうよね。きっと旅館を離れたのも、もし仮にそこで自殺を図ろうものなら、皆に迷惑が掛かると思って…それで、あの川の近くの林なんかで…
あれこれと考えるあまり七は、言わずと授業も頭に入らず。教師の声も右から左である。
しかし、たった数日間のみ、しかも従業員と客。という立場で接しただけにも、なぜこんなにも川西ヒスイの事が気になるのか。七は、自ら不思議に思った。
確かに、見るに話すに彼女は、とても魅力的な人物である。
無論、もし単に容姿が優れているのみであれば、やはり修二や男性従業員らの憧れともならなかったであろう。
かたや七も、ただ穏やかで凛としていて…だけでは、そこまでヒスイに惹かれはしなかったはずだ。
となると、その最たる理由として考えられるのは、それはヒスイが醸し出す、あの孤独感かも知れない。
果たして、それが天性のものなのか、あるいは『彼女の過去の経験』がそうさせるのか…とにかく、自身孤独を好む者として七は、そんなヒスイに共感し、さらに強く惹かれたのではなかろうか。
…うん、きっとそうだわ…
さて、ひとり納得した…あるいは、自らを納得させると共に、七は気分を変えるべく、ひと呼吸。
そして、
…そうよ、大丈夫。ヒスイさんなら…
などと心で頷くや、あらたに彼女の脳裏に浮かび上がって来たのは、残念ながら授業の事ではなかった。
それは、いま同じ空間にいる、その柏葉那央と佐伯俊也の件について、であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます