姉御ロザニアのパートナー探し2

「ようこそ皆様、これよりナディクス国の白騎士様によるスキンケアワークショップを始めさせて頂きますわ。まず、御三方の自己紹介からどうぞ」


 この講座は大人気のためか、12人くらいが余裕を持って座れるテーブルの座席には、詰め詰めに17人くらいが着席している状態だった。


 サルーシェ伯爵家のお嬢様が前に立って司会すると、真っ白で綺麗な顔立ちの3人が前に並んだ。


 ガッシリとした体つきを見れば騎士だって言われれば納得だけど、その格好は白いシャツに、白いズボンというとっても爽やかでラフな姿だ。


「はじめまして、ナディクスから来ましたアルダスです」


「カイディです」


「ミヘンです」


「このような場所に僕たちみたいなのが招かれて、しかも物を教えるなんて、本当にいいのか今だに信じられませんが、ナディクスに伝わるキレイを保つための家庭術を皆さんにお伝えしたいと思います」


 ナディクスといえば、情報規制がされてるから、国民たちがどんな日常を送って生活しているのか、全くもってベールに包まれてる。


 それに、数年前に国王が死んだけど、それも暗殺だったんじゃないかってもっぱらの噂だ。


 そんな訳が分からなくって、危険そうな国の騎士だから、招待してくれたサルーシェ家のお嬢様には悪いけど……正直、どんなに気味が悪いかと思ってた。


 けど、すんごい腰が低いし、感じのいい人たちだ。



 そして、早速ワークショップが始まった。


「それでは、ここに置いてある草花を一掴みほど、お席に持って行ってください。どれでもインスピレーションでいいので、好きなものを選んでください」


 座っていたご婦人やらご令嬢やら、私たち女騎士も大量に置いてある草や野花を取って行った。


「次は、すり鉢でつぶして、それを布で包んだら植物たちの天然エキスを搾り取ります」


 言われた通りに、人数分用意されている道具を使って、皆それぞれ作業に取り掛かった。


 白騎士3人は、そんな私たちの様子をゆっくり歩きながら、見て回ってくれている。


 すると、


「シルクさん、もう少し強めに絞った方がいいですよ。こんなふうに」


 私の隣りのご婦人が布で草を絞ってる所に、白騎士の1人が声を掛けた。


 ワークショップの参加者にはちゃんと名札が配布されてて、テーブルの席に置いてある。


 だけど、アルダス、カイディ、ミヘンって名乗った彼らには名札はつけられてなくて、皆同じ顔だから、その中の誰が話し掛けてるのか分からない。


 すると、隣りのシルクさんっていう貴族のマダムの後ろから白い手が伸びてきて、マダムが持っている巾着みたいになってる布を彼女の手ごと握って、一緒に絞り始めた!!


 これって、他の騎士とのデートという名の訓練で、いつも私が妄想してたやつ……


 もしかして、私もうまく絞れないでいれば、やってくれるんじゃね……?


 その閃きが頭から離れなくなってしまった私は、かなり弱々しく、ほんっの一捻り、草とレンゲの花を包んだ布を絞った。


 ブチィッ


 その瞬間、変な音がした。


「ああ、それは絞る力が強すぎますね。布がちぎれてしまってますよ、ええっと……ロザニアさん」


 異変に気づいて、すり潰してグチャグチャになってるレンゲの花と緑色の草が散乱してる私の席の方に来ると、白騎士はチラッと名札を見て私の名前を確認すると、替えの布を持ってきた。


 おかしいな、すんごい弱く絞ったつもりなのに……

 気づかないうちに力が入っちゃってたのかな。


 気を取り直して、もう一度絞ろうとしたら、


 ブチ! ブチ! ブチィッ!


 また音がした。しかも3連続で。


 すると、シルクさんとは別の方の隣りから、緑色の汁が飛んできた。


 見ると、ウィーナとルイーゼも私と同じように、グチャグチャの草花が目の前に散乱してる!


「なんで? ちっとも力なんか入れてないのに……」


「この布が弱すぎるんじゃない?」


 やっぱり、彼女たちも私と同じような疑問を口にしている。


 他の参加者たちは、絞った布から綺麗な色をした植物エキスをビーカーの中に滴らせている。


「ああ、これはいけませんね。何枚か重ねて絞れば大丈夫かもしれません」


 そう機転を効かせてくれた白騎士が、予備の布を持ってきてくれたけど、結果は同じだった。


 ついに替えの布は無くなり、私たち3人は自分用の植物エキスを抽出することができなくなり、何もすることがなくなった。


「最後に、植物エキスに水を加えたら、ナチュラルウォーターの完成です。植物の組み合わせや、水質によっても効果が変わりますから、ご自身の肌に合うものを探して見てください」


 そうして、ワークショップは終わりを迎えた。


 白騎士たちは、初対面の人とも教えるのに腕や手に触れるのは何とも思わないみたいで、そんなふうにしながら、他の人たちの作業をサポートしていた。


 何がいけないのか分からないまま、本当だったら私たちもあんなふうに、触れ合いと、些細な会話のやり取りと共に、この時間を楽しめたはずなのに……


 私はただただ、歯をくい縛ってこの時が過ぎていくのを待っているしかなかった。


 何の収穫物もないまま、会場を去ろうとすると、


「女騎士様たち、白騎士様がお話があるそうですわ」


 サルーシェ伯爵家のお嬢様から呼び止められた。


「皆さん、今日はせっかく来ていただいたのに、こちらで用意した布がしっかりしていなかったせいで、残念な思いをさせてしまいましたね」


 そう言って白騎士たちが現れた。


「いえー、いいんですよ! 気にしないでください!」


 本当はここからこの珍しいナディクスの騎士たちとのお近づきを期待してたのに、気にしてないのは大嘘になるけど、帝国の女騎士がそんなふしだらな考えをしているなんて、思われたくない!


「それで、3人で話し合いましたが、よかったらロザニアさんと、ウィーナさんルイーゼさんだけに日を改めて別の講座を行なうのはどうかと思いまして……いかがでしょう?」


 うっそ!?

 ここで思ってもみなかった展開が発生。


 ハプニングが逆に幸運をもたらしたのか。


 私たちは、別日に会う約束を取り付けてしまった。




 ******************

 つづく(予定)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る