奏と僕と その7
グシュッ!!!
「っあああああああああああああ!」
奏の両腕は、しっかりと僕の両肩を抑え込み、その指先は見えなくなるほどに突き刺さっていた。
『ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!』
頭を激しく左右に揺らし引きちぎろうとする奏。
気が遠のいていきそうになる度に顎の力がグッと強くなり、叫ばずにはいられなかった。
「ぅあああああああああああああああああああ!」
クソッ! クソッ・・・
クソッ! クソッ!!!
「かなでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
痛みに逆らうように必死にバタつかせていた両足も動かなくなり、奏の口元から吹き漏れる血しぶきを顔面に浴びる。
窓の外からは、全ての終わりを告げるサイレンが大きく鳴り響いていた。
次いで、大きな爆発音と共に地鳴りがして激しく揺れたが、これは地震ではない。爆発による凄まじいほどの衝撃波だった。
人が産まれた日に、奏との思い出がたくさん詰まったこの町この家この部屋に、なんてことするんだ!
せめて、大好きだった頭撫でをしてやりたいのに、両腕の力も入らなくなった。
ごめん、奏・・・
『・・・どざん』
毎年恒例、近所の夏祭り。
人混みが凄すぎて、前に進んでいかないほど大盛況の中、近隣の飲食店は、かき氷だフランクフルトにたこ焼きだと店頭に店を繰り出し、警備員さんが拡声器で怒鳴り声を上げている夏の一大イベント。
奏とは、タイミング悪く結局一度も足を運んだことがなく、毎年独りでテレビの生中継を消灯消音で見ながら、窓を開けて生の音を楽しんでいた。
そんな祭りのフィナーレを飾る超特大打ち上げ花火より、数倍大きな爆発音に混ざって、今、奏の声が聞こえた気がした・・・
『・・・とざん』
まただ。
三発目の爆発による地鳴りや衝撃波で、今にも割れて弾けてしまいそうなほど悲鳴を上げている窓の音に混ざって、確かに聞こえた。
『ひとさん・・・』
奏がゆっくりと体を起こし、もう一度、静かに口を開くのが見えた。
サイレンは鳴り止まず、おそらく最後の爆発が迫ってきている中、僕の右手を拾い上げ、指と指を重なり合わせる。
『ひとさん、指輪・・・』
鮮血に染まった顔で軽く微笑み、白く濁っていたはずの瞳は、本来の色を取り戻していた。
嘘だろ・・・
その茶色い瞳からは、血を流し落としてしまうほどの涙が溢れ出でいる。
「奏・・・」
『ん?』
「噛んでいいよ・・・・・・」
僕も涙が止まらなくなった。
指輪を手に取ると、あんなに苦労した左手にスッと嵌めて、顔を近づけてくる奏。
鼻先同士を何度か擦り合わせて、血まみれの唇を重ね合わせた。
最後の花火は、音が鳴ったかどうかさえも分からなかったと思う。
僕の視界は、涙でくしゃくしゃながらも笑顔で一杯になった奏の顔を最後に、真っ白になっていった・・・
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