奏とスフィンクスと その5

 この男性からは、あらゆる刺激が貰える。

 こんなにも大切にして貰った経験はないし、ありのままの私を出せたのも初めてだ。そんな私を否定することもなく、笑って受け入れてくれる。

「どうでしょうか、ハリポタかなぁ」

 ハリポタを選びそうな気がする。

「ハリポタにしよう」

 ほらね。

 私が、ひとさんの熱を冷まさせてしまうくらい、水曜どうでしょうを頻繁に見ているから、きっとこっちだと思った。だって最近は、隣で寝落ちしてるもの。

 ツッコミどころが満載なハリー・ポッター。二人でああだこうだ言い合いながら気兼ねなく楽しめる。

 毎回毎回、何かしら問題のある先生を、ホグワーツに招き入れるダンブルドア。

 事が起こってから「何が起こったんじゃ!」と駆け寄ってくるダンブルドア。

 最後はハリーたちに丸投げして自分の手を汚さないダンブルドア。

 この髭のお爺ちゃんは私たちの格好の的になる。

 そして毎回と言えば、もう一人。

 ハーマイオニー・グレンジャー。

 本当にロンが好きなの? と疑問を抱く私たち。

 毎度毎度「ハリー!」って本気で抱き着く度合いと、顔に書いてある「心配してたんだからっ!」に、私たちのツッコミは止まらなくなる。

 ハーマイオニーのハリー愛は半端ない!

 ベッドの上。

 ひとさんの太腿に頭を乗せて体を丸めていると、

「ごめん痺れた」

 と、お尻から足にかけて痺れさせてしまったご様子。

 すると今度は、体ごとソファーになってくれて、私の全体重を受け止めてくれる。

 後ろからソフトに包み込んでくる両腕。石鹸の香りを仄かに感じる右腕をハムッと一齧り。

 美女と野獣のエマ・ワトソンを見て『やだぁ、もう綺麗になってぇ』と親戚のおばちゃんになってしまう私に、すかさずツッコんでくれるこのソファーさんは、もたれている背中が柔らかくて凄く温かい・・・

 意識をテレビに戻すと、今日もルパート・グリントが情けない表情をしていた。

 そんなロンが好きだけど、何よりも誰よりも、スネイプ先生が大好きな私たち。

 炎のゴブレットの自習中っぽいシーンでは、ハリーとハーマイオニーの間に座り、一人だけ机に向かわないロンを見付けるスネイプ先生。

 すかさず右手で、その頭をわしゃわしゃっと押して机に向かわせる。

 その後も話を止めないロン。

 ハリーが先生に気付くも時すでに遅し!

 今度はノートでロンの後頭部をバン! と叩き、ハリーもついでに叩かれる。

 これだけでもお腹一杯なのに、さらに軽く腕まくりをして、背後から二人の頭を「勉強しろっ!」とでも言わんばかりにグイッ! と押さえ付ける。

 シーズンを重ねる毎に、主人公たちに見せるスネイプ先生の愛やギャップに堪らなくキュンキュンしてしまう。

 今、観ているアズカバンの囚人は、ひとさんがシリーズの中でも一番好きな作品。

「エクスペリアームズ!」

 叫びの屋敷で、ハリーに吹っ飛ばされる度に

『スネイプーーー!』

 と、私たちは先生に愛を籠めて楽しそうに叫ぶ。

 シーンは進み、暴れ柳の穴から這い出てきて主人公たちを、見つけるスネイプ先生。

 先程の暴挙に

「何をしてくれた、ここにいたかポッター」

 と詰め寄るも、背後にいるのは狼人間へと変貌したルーピン先生。

 振り向けばルーピン先生!

 咄嗟に身を挺して3人を守る!

『スネイプーーー!』

 ルーピン先生が右腕を高く上げ、振り下ろす。その一撃に一度は態勢を崩すも、素早く両手をピンッと伸ばし、再び3人を我が身の後ろに覆い隠すスネイプ先生。

 尊い。この先生は尊い!

「奏?」

『ん?』

「家でこうしてのんびりしてる時も、出掛けてる時も何してる時も、一緒にいてくれるから楽しいし落ち着く」

『うん』

「時々さ、携帯触りながらで、話を聞いてるようで聞いてなかったりして、右から左で怒られるし」

『うん』

「自分の価値観だけで、目に飛び込んできた色々な環境を愚痴っぽく否定したりして、嫌な思いさせたりさ」

『うん』

「太ったとか、腰に肉が付いたとか、足首がないとかさ」

『あぁ?』

「ッハハハ。二人で好いとこ見つけて引っ越そう。奏が大好きです」

『うん知ってる・・・』

 映画鑑賞をしている間は、なぜか痛みを感じなかったけれど、それは、ひとさんがずっと私のお腹に手を当ててくれていたからなのかもしれない。

『スネイプーーー!』

「スネイプーーー!」


 アラン・リックマンヘ愛を籠めて

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る