番外編.EXギルド【白銀の羽根】
<~1年前~>
白銀に染まる豪雪地帯。
遥か北にあり、魔獣達の巣窟と言われる人の寄り付かない大陸の端にとあるギルド一行の姿があった。
今やこのオーバーワールドで知らぬ者はいないと言っても過言ではない、国家指定連盟(EXギルド)にも名を列ねる【白銀の羽根】
数々の武名を世に広めた者達の集まり。
その豪勇達の中で更にエメラルドの階級まで登り詰めた三人の幹部達。
たった一振りの槍でどんな魔獣をもはねのける【銀色の騎士 ヴェルト・スパイクギア】
全ての事象(せいれい)を従える【飛翔の魔術師 ミランダ・ユークラリス】
様々な知識を持ち、魔術や魔導、ルーン文字までも解読する【大賢人 ナイツ・ミァン・レイヤー】
三名は『悪魔の住む島【ネザー】』での任務(クエスト)を終えたのち、長い休暇を経て再びギルドの一員としてある依頼を受けていた。
帝国の騎士や魔術師達を捨て置いて国の最高戦力とも呼ばれている彼等三名を連ねるにはあまりに退屈なクエスト。
勿論、ごく普通の冒険者にとってはEASY(かんたん)などとは程遠い……EXPERT(じごく)のような難度の仕事ではある。しかし、万戦錬磨である彼等にとってこれは呼吸をするにも等しい稚戯のようなものだった。『荷が勝ちすぎている』なんて言葉があるが、この場合では『名が勝ちすぎている』と言っていい程に三名にとってはとるに足らない仕事だった。
ただひとつ、いつもと違う事があるとすればこの三名に必ず随伴していた男の存在がなかったこと。その男は先に挙げた【ネザー】での任務にて殉職したとされていた。ここではその多くを語ることはしないが……つまりこれは三名にとってその男を欠いた初めての依頼(しごと)だった。だが、その男の存在は彼等にとって路傍の石となんら変わらず……いや、むしろ存在しているだけで彼等の機嫌を損ねたため有害でしかなかったために気にするはずもない。
鬱陶しい存在がいなくなったのちの初クエスト。それは彼等にとって有意義且つ最高のパフォーマンスを発揮できるこれまで以上にない成功依頼(パーフェクト)なものになる──はずだった。
「おいこら!! てめぇらさっさと荷物持ち変われってんだ!! 前線に俺様がいなきゃ急な魔獣に対応できねえだろうが!!!」
「あらお忘れですこと? わたくしは魔術師であろうと前衛となんら変わらない速さを持っていますのよ? それにわたくしは最初から荷物持(そんなこと)はしないと言ったはずですわ」
「斥候役なんていらないって言ったのはお二人なんですからね? 僕は脳(あたま)を働かせなきゃならないのでお二人でどうぞ。まぁ斥候なんて下仕事は僕の領分ではないので御免 被(こうむ)りますが」
彼等は出足から躓(つまず)いていた。
それぞれがそれぞれにて我を貫く──そうでいても事を巧く運べる実力者。その地位まで登り詰めた三者。
前述した通り、この三名での依頼(しごと)は初めてであり彼等は失念していた。『こき使う存在がいない時、誰かが下仕事をしなければならない』事──そして、三者共にそれは自分ではないと思っていたこと。
長い行軍には必ずついてまわる……荷を持つ存在、地図や地形を把握する存在、魔獣の生態や生息地、活動時間を記憶し……消耗するのを防ぐために動静を視察する存在、食糧を配分し調理する存在………当然、そのどれらも彼等はした事がなかった。当たり前のように存在していたそれを気にかけた事が無かった故に──それがなくても敵を蹴散らすなど造作もないと驕(おご)っていた故に。
「ナイツ、わたくしお腹が空きましてよ。食事はどうしますの?」
「僕に言わないでください、乾パンでもつまんでればいいじゃないですか」
「いりませんわ、わたくしは温かいスープと羊肉のローストを食したいのですわ。探してきなさい」
「豪雪地帯で無茶苦茶言わないでください。自分で行ってください」
「がぁぁっ!! くそっ!! もう3日もろくなもん食わねぇで探してんのに一向にたどり着かねぇじゃねえか!! ナイツ!! 地図くらい読めねえのか!!」
「豪雪バイオームはどれだけ予測を立てても読み通りとはいかないんですよ。荷物持ちしかしてないんだから黙っててくれません?」
「……あんだと?」
「お止めなさい。それでも【白銀の羽根】幹部ですの──……」
彼等は強いが愚かであった。
人間である以上、必ずついてまわる問題を軽視していたこと。空腹とは苛立ちを産み、思考を鈍らせ、身体を重くする。喩え訓練していたとしても【空腹】と【睡眠】の問題は人間には完全に克服できない。それが僅かながらの油断を産んだ事で死に直結することは強者にだって起こりうる。
「──っ! いつの間にっ……お二方!! 周囲に【ストレイ】【シルバーフィッシュ】【ウィッチ】【エンダーマン】多数!! 囲まれていますわ!!」
「「!!!」」
普段であれば絶対に起こりえなかった事態も簡単に巻き起こる。彼等は斥候を疎(おろそ)かにしていた為に、敵の接近に全く気づかなかった。これは敵軍の中に小賢しい知恵を持った者がいた事、擬態が得意な敵がいた事などが幾重にも悪く重なった結果ではあったが……事実、失態を犯した。
これらは全て……ある男がいれば簡単に防げた事態でもあった。
結果、彼等は屈辱的な敗走をする事になる。
無論……そこは万戦錬磨の三者。数にして総数150体もの敵は簡単に葬られた。しかし、時間的制約があったこの依頼を達成する事は最早不可能と、彼等の頭脳であるナイツは判断する。敵を葬りさったそののち……彼等は揉めに揉めながら帰路に着いた。目的は果たせないままに。
『クエスト失敗』、その事態に血が滲むほどに唇を噛み締めた三者はこの時未だに知らなかった──これが失墜へのほんの序曲に過ぎなかったことを。
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