#026.■BOSS戦『vsゴーレム』


 ソウルは地雷原を走り抜ける。

 事前に【土】の魔術で感知した地雷の数は42個──歩く隙間も無いほどに満遍(まんべん)なく仕掛けられているわけではない。ゴーレムが可動できるような道幅ならば場所さえ知っていれば踏まないように抜けるのは簡単だった。


(少なくともゴーレムで『遊ぶ』ために実験台にもある程度動くスペースを作ってるだろうしな)


 だとしたらやることは一つだった──こちらから先に動くことだ。

 悠長にゴーレムが動くのを待っていると袋小路に追い込まれる、最悪のケースは出口までの道を全て破壊された上で撤退されること……そうなればもうエリーゼの行方を知る術はない──で、あるならば、何を置いてでも先にあのゴーレムを可動不可能にすることが優先事項だった。


(エリーゼは間違いなく【雷】の魔術師……あのゴーレムも電気回路を組み込まれ操作されてるようだ……つまりあの女の手足となり自由に動かせる)


「あははっ、度胸あるじゃん!! 今まで迷いなく向かってきたやつはいなかったよ! 大概の弱者は魔術で攻撃してきたのに! それとも単なる考えなしのバカなのかなっ!?」


【クータリア・オン・バグス(飛来する雷)】


 嘲笑(あざわら)いながらエリーゼはソウルに向かい雷撃を飛ばす。だが、それらは彼に届く事なく、ソウルが走る先──地面へと落下した。


(───狙いは地雷か)


ドォォンッドォォンッ!!!


 それに気づいたソウルは立ち止まり、舞う土と昇る土気色の煙の直前で爆破をやり過ごす。地雷自体の火力は高く、火柱が一瞬昇るほどだ。

 ソウルは黒煙に紛れながら、散り散りとなった土を手にした。

 

(……こんなにも威力の高い爆弾や地雷をこんなに多くエリーゼはどこで手に入れた……?……それとも)


「ラインさんっ!!!」


 思考しいた瞬間、マインの叫びと同時に煙の流れが変わった。まるで立ち昇る煙を全て払うようにして斜め上空から『それ』はソウルに襲いかかる──巨大なゴーレムの腕、全てを抉(えぐ)り取らんとする鋼鉄の拳。


【黒耀一閃】


ズドンッ!!


 急襲したゴーレムの腕は根元から寸断され、殴りつけんとする勢いのまま地面へと落下した。ソウルが瞬時に抜き、凪(な)いだ【黒耀剣(ネビリム)】が魔術防御により鋼鉄の硬度を誇るゴーレムの腕すらも簡単に切断したからだ。


「爆発音と煙に紛れて一気に距離を詰めて急襲しようとしたわけか、なかなかの機動力だな。だが、土の斥候魔術は未だ継続させてある。煙に隠れてようと直ぐに位置はわかるぜ」


【マグタリア・オン・バグス(引き寄せる雷)】


 すると、魔術の発動を感じると共に、『もう一度』同じ場所から、同じように同じ拳が振り降ろされた。未だに完全には晴れていない黒煙が再度揺れる。他所からの別の攻撃に備え、意識を外していたソウルは流石に回避行動を取らざるを得ず──後方へと跳躍(ちょうやく)する。


ドゴオォォォォンッ!!!ガキィィィィンッ!!


 地面を破壊する音と振動、そして何かが折れたような音が反響し彼の耳に届いた。斬り払ったはずのゴーレムの左腕がまたもやソウルを襲ったという事実……まるで時間が巻き戻ったと言わんばかりの光景に思考せざるを得なかった。


(──切断した左腕は転がったまま……だとすると4本腕じゃない限り瞬時に再生したとしか考えられない……地面を殴りつけた音の後に聞こえた剣が折れたような音…………………………なるほど)

 

 後方に跳躍したまま、ソウルは考えを纏(まと)めて地に降り立ち、しゃがんだ。

 本来──魔獣【ゴーレム】は現在のオーバーワールドには数えるほどしか存在の確認はされていない。元来ゴーレムとは人に敵対することのない意志を持つ魔獣である。『とある理由』により魔獣認定されてはいるが……基本は人の意思を介さない限り、滅多に人を襲うことはない。

 そして、勿論だがその躯(からだ)は泥や土、岩石や鉱石の塊である。魔術を使う事はあれど──自然治癒で躯は修復されないし、回復魔術であっても再生するなんて事はない。


 ソウルは推察する──あのゴーレムはやはり単なる魔獣ではない、と。

 エリーゼの手により魔改造されている『人造』に近いもの。この【溶岩地帯】にある材料とエリーゼの【雷魔術】によって創造されたものだと。

 同時に、どうやらこのレッドストーン鉱山は想像していたよりも危険地帯であると共に厄介な場所だったことにも。


ドォォンッドォォンッドォォンッドォォンッ!!


 すると煙の奥──ゴーレムがいるであろう更に奥から爆発音が連続して聞こえた。それに伴って土気色の煙が四方から増加する。


(あちこちの地雷をエリーゼが自分で爆破している? 出口への道を無くすために───いや、煙を増やして視界を塞ぐのが目的か? だが、斥候魔術がある限り見えなくても敵の位置の把握はできると向こうさんもわかったはず……なにか別に目的がある?)


 ソウルのその考えは正解だった──その目的は既に彼に襲いかかってきていたから。


 既に廃線と化している、と気に留めていなかったレールの上に立ったソウルの横。煙に隠れた向こう側から……猛スピードのトロッコが突如として姿を現し、急襲してきた。

 

 時間にして約一秒半──ソウルがトロッコに気付き、激突されるまでを時間に換算するとそれくらいだろう。とても避けきれるものではなかった。

 仮に衝撃に備え、うまく腕で防御したとしてもたたでは済まない。吹き飛ばされ溶岩へと落下するか……よくて腕が使い物にならなくなるほどに気付くのが遅すぎた────


「あははははっ!! 『もう使われてない』って油断した!? 動かせるんだよあたしの魔術一つで!! 爆発の音と煙で向かってきたことに気づかなかったでしょ!? 初めっから『そこ』に誘導して激突させるのが目的よ!!」

「ラインさんっ!!!」



 ──煙により、『結果』の見えていないマインとエリーゼの声が空間に響いた。


 やはり思った通り……人の知恵や策略、古代の仕掛けや罠、未だ把握できていない魔術などを張り巡らされると今まで通りとはいかない。これまでの一辺倒の魔獣戦とは難易度が違う、策を為して人を殺そうとする悪意との戦い。あの手この手で人を陥(おとしい)れる究極最低の頭脳戦───ソウルはそんな思いを再度、噛み締め……またもや、笑った。


「なはは、随分楽しいアトラクションだ。これで終わりか? 研究女」

「──なっ!!? なっ……んでっ!?」


 煙が晴れ──バラバラになっていたトロッコを見てエリーゼは青ざめた。確かにその光景を見れば、驚嘆するのは火の目を見るよりも明らかだった。


 ソウルと、木屑と化したトロッコの間に、音もなく、前兆もなく、造作もなく、レールの進路を塞ぐかのように──【黒い箱】が突然、出現していたのだから。

 


「なはは、中々いい経験になったぜ。その礼にお前さんに面白いもんを【箱庭(プレゼント)】してやるよ」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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