#001~箱庭入門『アイテムスロット』



 目を覚ますとそこは静寂、真っ暗闇。先ほどまで日の光にあたっていたために混乱した記憶は更に思考の迷路をさ迷う。


「……灯り……灯りは……」


 俺は辺りを手で探る、が、感触的に考えるとそこには恐らく無機質の冷たい岩の地面しか存在していないようだった。


(これじゃあ何もできない……せっかく生まれ変わったのに……………そうだ……ハコザキが何か言ってたな……確か……『項目を開いてみろ』? だったっけ? ここに戻ったら真っ先にそれをやれって……)


 何分テレビゲームなんてやった事の無い、どころかそんなものの存在すら無いこの世界の住人の俺がそんな謎めいた言葉を理解するには時間がかかる。


 そう、俺は生まれ変わった。『あの後』……ハコザキから【箱庭(L・クラフト)】の力を借りた俺はテレビゲームの説明書よろしく……その能力の詳細を聞いた。あの男……ハコザキは長ったらしい説明が嫌いらしく、端的な説明を受けても話を半分も理解できなかった俺に苛々したハコザキは変な物を食わせやがったんだ。


『だぁぁっ! 面倒くせぇっ! 仕方ねぇなこれ食え!!【知恵の果物】っつーこの能力の知識が詰まった実だ!! これ食やぁ一発で理解できっからよ!! あ!?「果物は嫌い」!? てめぇぇぇぶっ殺す! 詰め込んでやらぁぁぁ!!』


 ……と、超強制的に果物を食わされたのだった。

 しかもその実はハコザキの前にいた世界……地球についての『知識』が詰まった実で『あ、間違えた。まぁいいか』とか言って結局この受け取った力については何もわからず終いのままだった。

 テレビゲームだのなんだのを俺が知っているのはそのせいだ。


(……だけど……この世界以外にも世界ってあったんだな……【地球】か……しかも、あんなに発展をした……まさに超科学的世界……魔法は使えなかったみたいだけど……文明って凄いんだな……まあ、今はそんな事を考えている場合じゃない、全部後回しだ。とにかく今は灯りが欲しい。確か……『五秒以上目を閉じると視界に項目が出る』だっけ?)


 俺はハコザキに適当に説明された通りにとりあえず五秒間目を閉じる。

 すると、真っ暗闇の視界の下にまるで絵に描いたような……白色の長方形のキャンバスのようなものが出てきた。


(……手を伸ばしても触れない……これは俺の視界だけに映っているのか……)


 長方形(キャンパス)には絵の具を溜めておくような真四角の穴が縦3列×横3列の合計9マスあり、そこには更に絵で描かれたような不思議な形の道具らしき物が見える。


(これは……確か地球の液晶画面に表示されるドットとかいう表現方法だな……描かれた道具の下には数字が描いてある…………とりあえずこれは手を伸ばせば取れるのか?)


 俺は地球で言うところの『葉巻』みたいなものが描かれた穴に手を伸ばす。すると、俺の手はまるで異空間に呑まれたようにキャンバスの四角い穴に入りその葉巻みたいなドット絵を掴んだ。


ボオッ


「熱っ!!」


 熱さを手に感じた俺はそれに感動する間もなく、キャンバスから手を引き抜いた。


「………熱っっつ……! でも……すごい……これが……」


 辺りが光に照らされる。

 そう、俺の手にはしっかりと【松明(たいまつ)】が握られていた。


「異空間から物を取り出したり……収納したりできる……種類別に9種…これが……【箱庭】の力……」

〈なははは、【アイテムスロット】なんかで驚いてんじゃねぇよ! そりゃあ【箱庭(ラインクラフト)】のほんの付加価値にすぎねぇ〉

「うわぁぁっ!?」


 またもや急にハコザキの声がする。松明で辺りを照らしてみてもその姿は見てとれない。


<なはは、上から見てんだよ。つっても空じゃねえぞ? お前がゲートで通ってきた箱の世界……あれはお前さんの世界【オーバーワールド】を模した……っつーかこっちが元なんだけどな。そっから見てるんだよ>


 小難しい用語が多い。

 ついさっき地球の知識が記憶されたばかりの俺でもハコザキが何を言ってるのかはまだよくわからないが……まぁそれは追々理解していく事にしようと思考を止める。


「なんかよくわからないけどわかったよ、それよりも……」

<なははは、わかってるっつーの。【箱庭(ラインクラフト)】の力はこんなもんじゃねぇ……教えてやっから早速試してみろよ、その力>







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