第25話 パワースポット

 翌日、少し遅い朝食を食べた。

 

 今日は婆さんが担当だ。

 

 鮭、海苔、納豆、卵、ほうれん草のお浸し、糠漬け、ワカメとネギの味噌汁だ。


 何だろう、使っている味噌とかは一緒だと思うんだが、味が違う。

 どちらが作るのも美味いが、やはり婆さんに一日いちじつちょうがある。

 

 昨日は夜遅かったので、今日はこの周辺で過ごす予定だ。

 何処に行くか話をしていたら、俺が初詣に行っていない事がバレた。

 箱根神社はパワースポットらしく、有希が行こうと言い出した。


 俺は神を信じない。

 

 元々信じてはいなかったが、母親が生きていた頃に柔道で怪我ばかりしていたので、名のある神社で5千円納めて健康祈願をした3日後に足を骨折したからだ。 

 俺はそれ以降、バカらしくて初詣等には行かなくなった。

 

 そもそも初詣だって明治時代に鉄道会社が列車に乗って欲しくて宣伝した結果広まった行事だ、江戸時代には正月は家で皆ひっそりとしていたらしい。

 

 まぁ俺は空気の読める男だ(嘘)、黙って有希の行きたい所に行く事にした。

 

 …しかし、俺の過去を振り返ると、本当に何もいい事が無いな、どうなってるんだ俺の人生…

 でも、せっかく生んで貰った命なので、自殺はしない。

 しっかり生きて、それから死にます。

 

 車で出発し神社の近くの駐車場に車を止め、湖畔の脇の道路を歩いていると、平和の鳥居が現れた。


 皆順番にスマホで写真を撮っている。

 

 有希は

 

 「一緒に写真撮ろう。」

 

と俺の隣に並んで自分のスマホをコチラにも向けて来た。

 

 …ハッ…なんか有希の手が俺の腰に手を添えている…

 ドキドキしちゃう。

 

 俺は1度も自撮りなんてした事無いぞ、どうすりゃいいんだ…

 取り敢えずニヤリとしてみた。

 撮った写真を見ながら有希は、


 「表情がwww

 後で送っておくね。」


と笑っている。


 「これでも笑ったつもりなんだけど…」


と言うと、更に笑っていた。


 鳥居の正面の階段を上っていると付近は山の中の様な雰囲気で、とても落ち着く感じがした。

 

 上った正面に箱根神社、右側に九頭龍神社新宮があり、どちらも参拝客が並んでいたが俺は箱根神社の列に並んだ。


 自分達の番が来たので賽銭を入れた。

 俺は5円だ。

 それ以上払うつもりは無い。

 

 願いは…そうだな、有希が幸せになります様に。

 

 あ…俺自身のための願い事じゃないから、もっと賽銭を奮発すれば良かったかな…

 …ハッ、イカンイカン、騙されるな、神はいない。

 

 「何をお願いしたの?」


と有希に聞かれたが、言えるワケがない。

 俺は


 「神社で願い事をする時は、住所と名前を最初に言うの知ってた?」


と話を逸したところ、


 「えっ、知らなかった、ちょっと待って。」


とまた拝み出した、可愛い。


 俺はそのまま階段を降りようとしたところ、有希が


 「待って、隣の九頭龍神社も行こう。」


と言って来たので、


 「えー、また並ぶの?

 1箇所でいいじゃん。」


と渋ったら、


 「ダメーっ!

 箱根神社に行ったら、こ、こっちも行かないといけないんだよ、一緒に来てっ。」


と引っ張られたので、俺は黙って一緒に並んだ。

 温泉の効能じゃないが、神社によって何か違いがあるのだろう、だが神を信じない俺には全く興味が無い。


 「何かまだ建物が新しいな。」


と呟いたところ、有希が


 「本当はちょっと離れた別な場所に本宮があるんだけど、そっちにわざわざ行かなくてもいい様に新しく新宮が出来たの。」


と説明してくれた。


 また自分達の番が来たので財布を確認したところ、5円が無い。

 仕方ない、10円でいいや。


 俺はまた同じく、有希が幸せになります様にと願い事をした。

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