第16話:恋に恋する恋乙女02
「凡人は逃げるところがある。これは羨ましいです」
「選民思想も程々にな」
端的に言ってのける零那。
「視野狭窄はこの際デメリットだぞ?」
「誰の? 何が?」
「さてな」
ホケッと惚ける零那だった。
「保健棟に来たって事は気分が悪いんだろ?」
「ええ。庶民には分からないでしょうが」
「同じ人間が二人もいればそっちの方が驚くがな」
零那の皮肉は痛烈だ。
「だから誰も私の悩みを知りません」
「知ったこっちゃないしな」
やはりサラリと皮肉る。二葉の立場を案じる身分でも無かった。
「あなたみたいに逃げられるのなら幸福でしょうね」
「だぁなぁ」
否定はしない。
「自分の不器用さを覆い隠す言葉としては上等だ」
肯定もしなかったが。
「不器用?」
二葉が眉をひそめる。責めるような光が黒色で示された。
「何かに付け自分を追い込むのは若い証拠だ」
「自分は違うと言いたげですね」
「期待するだけ無駄だしな」
「何故保健室登校を?」
「スクールカーストの最底辺だから」
サクリと。
「…………」
二葉は疑念にかられるだろう。致し方ない。
零那は美少年だ。なおかつ勉強も運動もそつがない。これだけなら恵まれているが、恋に多感な時期であれば、時に突出は排斥される。
虐められれば、
「虐められっ子」
とレッテルが貼られ、同調圧力でクラスメイトから無視される。
「あう」
二葉の背筋に涼風が吹いた。
「ごめんなさい」
「大したこっちゃない」
虐めの原因が二葉でもない。これは事実だ。
「そういうお前はどうなんだ?」
「私ですか?」
この頃の二葉は、
「あっし」
そんな一人称を持っていない。ギャルじゃないのだ。
「逃げられない何かがあるんだろ?」
「…………」
二葉の警戒も必然。今知り合った男子に吐露することでもないが、
「何なんだろ?」
零那に覚える陰りが口を軽くした。
「私は今ちょっと忙しくて……」
「仕事か?」
「習い事……とか……」
「書道とかそんなんか?」
零那には縁の無い環境だ。
「ピアノとかダンスとか書道、茶道、華道、俳句……」
「大変だねぇ」
感情も込めずに言ってのける。
「勉強も……少し付いていけない処があって」
「さいか」
どこまでも零那は取り合わなかった。
「何も言わないの?」
「弱みにつけ込んで欲しいのか?」
「そういうわけじゃ……」
皮肉で目の前の男子には勝てない。
そう二葉は理解する。
「ほい」
そんな二葉に零那は梅昆布茶を差し出した。陶器の湯飲みで。
「え?」
「胃に優しいお茶だと思うぞ」
「勝手に淹れていいんですか?」
「校則に生徒が茶を淹れちゃ駄目とは書かれてないしな」
「えと……養護教諭の意見は?」
「好きに使えとお達しだ」
「どれだけ保健室登校?」
「知らんが」
肩をすくめる。
「お前が気にするこっちゃない」
それも事実だ。
「辛くないの?」
「逃げ場所を確保してるもんで」
当人は和やかにコーヒーを飲む。
保健室登校をしている身としては楽園だろう。尚のことになるが零那に於いては勉学の後れは有り得ない。
「テストで良い点とれば教師も口出しできないからな」
まるで他人事のように言うのだ。
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