1-9. ハッキングは死刑

 達也が真っ青な顔で言葉を失っていると、『きゃははは!』と、上の方から笑い声が聞こえる。

 驚いて上を向くと、そこには青い髪をした女の子が宙に浮いて笑っていた。

 デニムのオーバーオールに白いシャツ、グレーの帽子をかぶったその可愛い女の子を見上げ、達也は心臓がバクバクと激しく高鳴るのを感じた。

 この女の子は神の力を使い、タワマンをぶち壊して楽しんでいる。

 その娘の背筋の寒くなるような存在感に、達也はどうしたらいいのか分からず、固まってしまう。

 すると女の子は、

「やっぱり出てきたねっ! みーつけた!」

 そう言いながらうれしそうに達也の前まで下りてきた。

「こ、これは君がやったのか?」

「そうだよ? ハッカーがこの辺に潜伏してそうだったので斬ってみたんだ」

 女の子はニコニコしながら言う。

「多くの犠牲者が出てますよ? いいんですか?」

 達也はにらみながら言った。

「他人のことより、自分のこと心配したら? ハッキングは重罪だよ?」

 女の子は急に険しい調子になると、腰に手を当てて達也をにらむ。

「えっ!? 誰にも迷惑かけてないじゃないですか!」

「だーめ! ハッキングは死刑って決まってるのよ」

 女の子は人差し指をゆらす。

 この世界を管理する存在にバレてしまった。それは最悪の事態だった。


 くっ!

 達也はパリの地下洞窟にワープする。以前観光で訪れたその洞窟は長大で暗く、不気味で身を隠すにはうってつけだと思ったのだ。岩陰に身を隠し、見つからないことを必死に祈る。

 この洞窟はカタコンブ、要は墓場である。壁には人間の頭蓋骨がたくさん並んでいて気味が悪いのだが、今はそんな事はどうでも良く感じられる。


 きゃははは!

 楽し気な笑い声が洞窟の中に響く。やはり神ともいうべきこの世界の管理者アドミニストレーターからは逃れられないらしい。

「逃げたって無駄だよ~」

 女の子の声が洞窟に反響しながら近づいてくる。

 しかし死刑を受け入れる訳にもいかない。


 達也は意を決すると南太平洋のコテージにワープする。

 そして室内に多量のTNT火薬を山のように配置した。逃げられないなら倒す以外ない。神相手にこんな攻撃が効くのかどうかわからないが、やれることはやってみる以外なかった。

 直後、

「逃げても無駄だってば!」

 そう言いながら女の子がワープしてくる。

 それと同時に達也は上空に跳び、火薬に点火した。


 ズン!

 コテージは轟音をあげながら大爆発を起こし、巨大な炎の玉がサンゴ礁の小島の上に広がっていく。

「やったか……?」

 激しい熱線を浴びながら達也は様子をじっと見守った。

 可愛い女の子に爆弾を浴びせるなんてこと、やりたくないのだが殺されるわけにもいかない。


 きゃははは!

 炎の玉がキノコ雲となって舞い上がっていく中から笑い声が響く。

 女の子はまるで鬼ごっこを遊んでいるかのように、青い髪をゆらしながら楽しそうに達也の方にツーっと飛んでくる。


 達也は観念する。やはり神には通常の攻撃など効かないのだ。

 女の子は達也の前まで来ると嬉しそうに言う。

「いいじゃん、君、センスあるよ。うちで働くかい?」

 死刑宣告かと思ったらリクルーティングである。それも神の組織で働く、それはとても魅力的な話だった。

「えっ!? い、いいんですか?」

 達也は思わず声が裏返りながら言う。

「ただし、一つテストをさせてもらうよ」

 女の子はニッコリと笑って言った。

「わ、分かりました。何をすれば?」

「あなた、陽菜に全部しゃべったでしょ? あれ、マズいんだよね。殺してくれる?」

 ニヤッと笑う女の子。

「え……? 殺すって……陽菜を殺せって事……ですか?」

「そう、今すぐ殺して。そうしたらテスト合格、内定出しちゃうわ」

 女の子はニコニコしながら殺人を指示する。

「ちょっと待ってください。彼女とは結婚の約束があります。婚約者を殺すなんてことできません」

 達也は必死に断った。

「じゃあ、不合格。君は死刑、陽菜も処分だね」

 女の子は肩をすくめる。

「しょ、処分? 僕が断ったらあなたが陽菜を殺すんですか?」

「そうだよ? この世界の秘密を知っちゃった者は処分って決まってるのよ」

「だ、だめです! そんな事させません!」

「ふーん、じゃ、どうするの? 僕を殺す? きゃははは!」

 女の子はうれしそうに笑った。

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