水竜国のケヤク
かっつん
第1話
もう秋だというのに、まるで真夏に戻ったかのような暑さだった。まだあと数時間は鞍の上にいなければならない。黒髪の青年は恨めしそうに太陽を見やり、後ろに声を掛けた。
「おーい、俺は疲れた。少し休むぞ」
青年は後ろに向かってそう言うと、道端の木の脇で馬を降り、腰の剣を木に立てかけ、皮袋を取り出した。水を入れた皮袋から喉に水を流し込み、ぷはあ、と大げさに息をつく。
その青年の様子に苦笑しながら、後続の女が馬から降りて言った。
「ケヤクはすーぐ休もうとするんだから」
「ほら、シャミル」
シャミルと呼ばれた女は青年から皮袋を受け取り、自らも口をつけた。
「まあ、いいさ。どうせ後は荷をセティヌさんに届けて終わりだ。夕方までに着けばいい」
大柄な男はそう言って、自らも馬を降りた。
「ほい」
大柄な男は女から回された皮袋を受け取ったが、すぐに首をかしげた。
「おい、ケヤク、飲み過ぎだ」
そう言って男は青年に空になった皮袋を放り投げた。
「おお、すまんな。確か少し行けば、湧き水があったろう。そこで水を汲んでいこう」
「ちっ、まったく」
男は呆れたように言って、腕を組んだ。
「ま、今回もお前のおかげで誰も死ななかったし、水くらいは許してやる」
「ああ、感謝しろよ?」
黒髪の青年はそう言って笑った。
「ね、さっきの街でもらったびら見てみなよ。ダイアウルフ兄弟団、サウシームの悪徳領主サシモスを襲い、月夜の闇に消える! だってさ」
「へえ、耳が早いもんだ」
青年は木陰に寝転んで言った。
「まあ、サシモスはかなりごうつくな税をかけてたからなあ。屋敷にも相当ため込んであった」
大柄な男が答えた。
「あそこは税が六割らしいじゃない。毎年毎年不作なのに六割も取られたんじゃ、ろくにごはんも食べられないだろーね」
シャミルの言葉を聞きながら、ケヤクはサウシームの様子を思い出していた。サウシームの名産である葡萄畑で働く子供達は、ほとんど骨のような体で働いていた。もう収穫期が近いというのに、葡萄の粒は小さく、あれでは今年の稼ぎも少ないだろう。あの子達の内、何人が今年の冬を越せるだろうかと思いながら、ケヤクは木の葉から太陽を透かして見た。
「ねね、今回は結構、報酬も出そうだし、明日は街に行くでしょ?」
女が声を弾ませながら言う。
「街かあ、そうだなぁ」
ケヤクは気乗りのしない声を出したが、男は女の案に食いついた。
「おっ、いいじゃねえか。久しぶりに飲もうぜ」
「ほ~ら、ジナンもあの娘に会いたいってさ」
「お、おれは別にそんなんじゃねえ!」
ジナンが顔を赤らめた。ケヤクははしゃぐ二人を眺めながら言った。
「……ま、飲むのも仕事の内かぁ」
「そーそ! 仕事仕事!」
「よし! そんじゃさっさと帰ろうや!」
「元気だねえ~、お前ら」
せっかく寝転んだところを強引に立たされ、ケヤクはまた馬に乗せられた。
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