phase14.特異

21時10分。

再び研究所に着いた颯音は体の至るところが悲鳴を上げているが、車から降りた。


「あーいてて。」

「わざとらしいな。そんな痛くないだろう。」

「痛いですよ。かなり殴られたんですから。お腹も痛いし。」

「ちゃんとガードしろよ。」

「俺、そういうの全くの素人なんですけど……。」


二人がぶつくさ言いながら研究所に入った。

夜の21時を回っているのに研究所の中は相変わらず白衣の研究服を着た人で行き交っていた。


「ここ、交代勤務なんですね。」

「そうですね。研究や治療は日夜行われていますから。」

「へえ。」

「まずは藤崎君のけがの手当てからです。西宮さんは奥のホールで待機していてください。くれぐれも失踪だけはしないでくださいよ。」

「分かりましたよ、俺を野生の猿とでも思ってるんですか。」

「実際それ以上に自分勝手にいなくなってるじゃないですか。今回は勘弁ですよ。」

「はいはい。」


軽く手を振って西宮は扉の奥に消えた。


「さ、簡易的ではありますが、検査をします。こちらへ。」


そして約15分かけて颯音は検査を受けた。

検査結果はすぐに分かった。


「異常はなさそうですね。良かったです、外傷のみで。」

「体はもうあちこち軋むように痛いんですけどね。」

「もう私がいますから、彼がまた何か仕掛けてきてもご安心ください。」

「そういうことあったんですか。」

「なかったら、言わないですよ、こんなバカげた忠告。」

「横谷さんも、色々大変なんですね。」


横谷は小さくため息をついたが、すぐニコっと笑った。


「さて、彼がまた失踪してしまう前にホールに行きましょう。」

「はい。」


そして二人は多目的ホールに向かった。


「おっそ。」


ホールのど真ん中で西宮は大の字で寝ころんでいた。


「お待たせしました。藤崎君は異常がありませんでした。」

「そりゃよかったな。じゃあ早速始めるか。」

「え、もしやまた喧嘩というか、組手? するんですか?」

「いいえ、藤崎君の能力についてや諸々の件についての説明です。まずは。」

「横谷! お前の説明は専門用語が多くて分かりにくい! 一般の人にも初めて聞いても分かるように説明しろよ!」

「すみません、つい。」

「横谷はいいよ、俺が全部説明する。専門用語、覚える気はなかったけど、再三あんたから教えられてもう暗記したまである。」

「そうですか。ではお願いします。くれぐれも無茶と暴動は起こさないでくださいよ。」

「だから俺をなんだと……。」


西宮は起き上がり、腰に手をやる。


「でしたら、私は研究の続きに行きます。ちょっと後輩をほっといているので。」

「はーい、いてら。」


西宮はホールを後にする横谷に軽く手を振った。


「藤崎って言うんだっけ。さっきは悪かったな。」

「い、いえ。」


あんなに乱暴してきたのに素直に謝罪してきたことに拍子抜けしてしまったが、颯音はぺこっと頭を下げた。


「正直よ、多分ここ来た初日色々説明受けてもらったと思うけど、意味わかった?」

「ちょっと難解な部分があって理解しているか自信ないっす……。」

「だよな、俺もだった。俺もようやくすべて理解したんだから。」

「それを今から教えてくれるんですね。」

「そうだ。あの脳みそスーパーコンピューターなやつのカッタい内容をバラバラに砕いて簡単に教える。」

「ありがとうございます。」

「まあ長くなるし、座ろうや。」


二人はホールの地べたに座った。


「まずだ。お前の身に何が起きたのか。単刀直入に言うと、人間卒業だ。」

「え。」

「もう普通の人間じゃない。遺伝子も余計に一つ増えて、普通じゃなくなった。ま、普通じゃないと言っても御覧の通り見た目は人間だ。俺たちは、特別な人間だ。」

「特別……。」

「横谷はそれを特異染色体と呼んでいたな。ふつうの人間の設計図にオプション、すなわちオマケがついたと考えたらいい。」

「分かり易い……。」


颯音は頷きながら西宮の話を聞いていた。


「そしてゲームのHPに相当するのがアイツの言うテロメアだ。だがオプション染色体の設計により、並の人間の寿命の数十、数百倍もテロメアを有してる。長寿ってわけだ。だが、あとで言う能力やもろもろにはそのテロメアを消費する。」

「HPを消費して戦うってことか。」

「そういうこと。だが、能力の大きさによって消費の量は変わる。もともと強大なテロメアだから、すぐ死ぬわけじゃない。むしろめっちゃ生きる。」

「それも言ってました。相変わらず言葉難しかったですけど。」

「そして、能力にカテゴリが存在しない。皆十人十色の能力を持っている。一つとして同じ能力は存在しない。だが。」

「だが?」

「カテゴライズはできなくても、大雑把に分類することが出来る。」

「つまりカテゴライズできると!」

「そうとも言う! そして、大きく分けて能力の系統は4つ。一つは脳内で想像したものを具現化する能力が主体の想像顕現型。そして自分の身体の一部を代償にする自傷型。自分以外の意識を憑依して戦う憑依型。そして有象無象を支配する全知全能型。」

「なるほど。」

「まあこれもだいぶ想像しにくいかと思うんで、たとえ話で教える。想像顕現型は全特異染色体中、約60%を占めている。脳内で想像したものを実体化、具現化する。例えば剣とか、拳銃とか脳内で想像すると、実際に脳内で思い描いたものが実態として顕現する。物体、非物体どちらも顕現できる。」

「すげえ。」

「お次は自傷型。これは全特異染色体中、約15%。これは単純さ。自分の体の一部を犠牲にして発現する。例えば歯を爆弾にしたり爪を刃物にしたり血を酸にしたり。」

「それは嫌だ。」

「憑依型。全特異染色体中、約23%。これは他人の意識を自分に憑依させ、憑依した人間と自分の力の総量が力となり、能力が憑依した人の分も扱える。俺の意識がお前に憑依したとすると俺の能力とお前の元から持ってた能力が使えるということだ。」

「それはなんか難しそう。」

「そして全知全能型。全特異染色体中、約2%。この世に存在する法則を捻じ曲げることが出来ると言われている超稀少染色体。それ以外が現状全てブラックボックスとされている。」

「それってもうすでに実在する人が居るんですか。」

「分からない。報告がないからな。もしかしたら発現はしているが、隠している場合もある。いつどでかい犯罪を犯すか分からないな。もしくは、世界征服。」

「それはもうはや黙示録……。」


颯音は顔を引きつらせて青ざめる。


「分かり易いけど、とにかく俺はその中のどれかってことなんですよね。最悪その全知全能型だったらどうしよう。」


西宮は数秒黙り込み、口を開いた。


「そして藤崎。お前はこの中で。」


颯音は息をのんだ。


「お前はこの中で、二つの特異染色体を発現している。」

「え、俺、二つ!?」

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