phase9.術<すべ>

そしてその後、普通に身体検査を受け、横谷の送迎で颯音達は帰った。


「そんじゃあね。」

「今日は散々だったな。俺たちはさながらヒーローじゃね?」

「俺はもうこりごりだよ、あだ名スーパーマンとか嫌だからな。」

「私はもうあんなの御免ですけど。」

「そりゃあみんなそうだろ。」


そして颯音は笑顔で二人を見送った。

軽快なエンジン音を立てて、横谷の車は数十秒で見えなくなった。


「はあ、ほんとに今日はやばい日だったな。入学式だったんだよね。」


颯音は背伸びをした。

辺りはすっかり夜になっていた。


「さてと、入るか、家に。」


玄関のドアを開けると、目の前に母が立っていた。


「え、か、母さん?」

「あんた、今何時だと思ってるの?」

「え、えと、9時?」

「遅い! 入学式あったのに何でこんな夜に帰ってくるの!」

「いや、母さん。これには事情が……。」

「それに顔に傷なんか作って! 喧嘩してきたの?」

「母さん聞いて! ほんとに聞いて!!!」


颯音は母をなだめ、居間の椅子に座った。


「実は、入学式中に殺人事件があってね、その後の警察からの事情聴取でこんな時間になったんだ。」

「ふうん。」

「意外とあっさり飲み込むのね。」

「この世の中物騒だからね。」


母はため息をついて口を開く。


「まあ、心配だったから。無事で何よりです。」

「心配かけて悪かった。」

「次は連絡のひとつくらいよこしなさいよ、全く……。」

「そんじゃ、風呂入って今日は寝ます。」


そうして颯音は風呂に入った。

頬に貼っていた絆創膏をゆっくり剥がして。


「いてて……。」


その後颯音は眠った。




―国立精神医療科学研究所内。

最高機密機関、ヒトゲノム計画研究開発施設所長室。


「横谷。どうだったかい。」

「例の方ですか。」

「そうだ。ようやく発現したというところか。」

「ですね。」

「一度野に放ったひな鳥が、いよいよ親鳥のもとへ帰る時が来た。」


年を召された老人がにやりと笑い、培養器に手を添える。


「私の悲願は私の命をもって完成する。正しき世界のために。人間が人間たらしめる者であるために。」

「しかし、予想をはるかに上回る結果でしたよ。」


横谷は老人に検査結果の載った紙を渡す。


「かっかっ。この程度のことなど、想定内。横谷よ、私を誰だと思っている。」

「……。」

「私にはよろずすべを持っている。」


そして老人は甲高い声で笑った。

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