第53話 気まずいドライブ

 お店の駐車場には俺とさくらだけに成る。

 此処に居ても、もう仕方が無いのでさくらを送る事にしよう。


「じゃあ、さくら。家まで送るよ!」


「……はい」


 さくらが“やきもち”を焼いている感じはしないが、少し不機嫌そうに返事をした。

 本当に心は女性のさくらで有る。


 二人共、車に乗り込み、俺はエンジンを掛けて車を発進させる。

 車内の時計で時刻を確認したら、20時30分を過ぎていた。

 俺が朱里さんの連絡先を聞いた所為で、かなり遅い時間に成ってしまった。(汗)


 お店が有った道路から国道に出る時、信号が運悪く赤に変わってしまった為、しばらくは信号待ちでの停車で有る。

 この間……お互い、声を掛け合わなかったので、俺からさくらに声を掛ける。


「……さくらの家って、門限とか有るの?」


「門限ですか…?」

「はい。有ります!!」


 さくらはまだ不機嫌かなと思ったが、落ち着いた口調で返してきた。

 でも、今までのさくらなら、声にもっと元気さを感じた。

 まだ、さくらの機嫌は完全には、良くなっていない証拠でも有った。


「それって、何時まで?」

「21時とかでは無いよね……」


 俺は少し不安の声でさくらに聞く。


「……私の家の門限は、22時が目安です」

「ですので、ギリギリですね……」


 さくらはやはり、冷めた口調で言う。

 俺がうっかり失言をしてしまったから、さくらの機嫌を損ねてしまった。


「確か、宇野あざの駅から電車だもんね……」

十浜とおはま駅まで送ろうか?」


 俺はさくらに、先ほどのびでは無いが、自ら十浜駅まで送ると言ってみる。


「いえ、大丈夫です……」

「今晩は、宇野駅から両親に迎えに来てくれる様に頼みますから…」


 さくらは俺の善意を、両親の理由付けて断る……


(これは……どうしましょう…)

(このままの状態で別れると、二度と逢えない感じがしてきたな…)


 交差点の信号機が青に変わったので、俺は車を発進させて国道に出る。

 この国道は宇野駅まで、一本道で行けるので、後は道沿いを走るだけで有る。

 大体ここから、30分位で駅に付けるだろう。


 車内は無言の時間が訪れる……

 流石にこの時間に成ると交通量はかなり減っており、順調良く進んで行く。

 数分もしない内に、あっという間に朱里さんの店の横を通り過ぎる。

 更に信号機も少ない区間なので、予想の時間より早く着けそうな感じだった。


「……」


「……」


 俺は何か、声を掛けなければ成らないと思うが、何を声掛けしたら良いのか分からない。

 さくらも俺の方に顔を向けようとはせず、静かに窓から見える景色を少し悲しそうな表情で見ていた。

 順調良く道が進むお陰で、かなりの早い時刻でさくらとのドライブが終了に成りそうで有った。


 王乃おうの市の市街地が見え始めて、このまま無言状態で終るかと覚悟し始めた時、さくらがやっと自ら話し始めるが、それはとても沈んだ口調で有った。


「……颯太さん」

「颯太さんに覚悟が無い様でしたら、残念ですが今回で合うのは、お仕舞いにしたいと考えています…!」


「!!!」


(何となく感じていたが……そう来るか!)


「小説投稿サイト上の交流は、しばらくは続けますが、私に新しい人が見つかるまでです……」


 さくらは俺を完全に見切り、別れの意味を含ませた言葉を発言する。

 朱里さんの喫茶店駐車場で、朱里さんの仲介の中、俺とさくらは恋人宣言をしたのに、宇野駅で恋人関係解消では、朱里さんにはとても報告出来ないし、俺の時間や労力も完全無駄に終ってしまう!!


 市街地に宇野駅の案内標識も出て来て、後、本当に数分で宇野駅に着いてしまう!!

 その間に俺が覚悟を決めた言葉を言い、この関係を修復させて、そして遠距離の関係でも、関係を保たせる事をしなくては、次回さくらと逢う事は出来なくなるだろう!!

 俺がさくらを中途半端に受け入れた所為で、却ってさくらを追い込んでしまった。


「さくら……」

「俺はさくらのことを……どんな目で見れば良いのか、分からないのだ…」


「はい……。分からないので有れば、分からないで良いです」

「ご迷惑をおかけいたしました!」


 さくらは沈んだ口調で頭を下げる。

 その時丁度、道路照明が車内に入ったが、さくらの表情は完全に諦めていた。

 全部……俺の所為だ……

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