夢の中で
* * *
ここは……?
何もない真っ白い空間。
上も下も分からない。
全面に広がるのは、ただただ白い空間だけだ。
あれ? みんなでピクニック中だったはずなのに……。
「気付いたか」
だ、誰!?
辺りを見渡すと、先程はなかった人の頭サイズの光の玉がふわふわと浮かんでいる。
「こ、これは……?」
不思議な光の玉に、思わず近寄ってみる。
「我はこの世の創始者。現在、我は其方と精神空間で繋がっている状態だ」
「うわ! 何これ、しゃべった!?」
「何これ、とは失礼な。我はこれでも神ぞ」
「神、ってことは女神様!? それに、精神空間とは一体……」
「我は女神ではなく、もう一人の創始者にあたる者だ」
「は、はぁ」
何が何だか良く分からないけど、この光の玉は創造神の一人、ということは理解出来たわ。
しかし、創造神様が一体何の用があり私を訪れたというのか。
「其方の魔力が安定するのを待っていたのだ。其方……いや、転生者ーーーよ」
それは、前世の私の名前だわ!
「な、何故その名を」
「其方は、我の呼び掛けに応えし魂。我の力を引き継ぎ、この世界を救う力を持つ魂だ。故に、我は其方の真の姿を知っている」
「……!」
そうだ、ラウルが言っていたわ。創造神様と似た魂に特殊魔力が宿ると。
「その通りだ」
思考が読まれている!?
あ、そっか、ここは精神空間と言っていたから、思考が筒抜けなのかしら。
「我は今までずっと待っていた。我と女神に同調する二つの魂が揃うのを」
「二つの、魂?」
「そうだ。女神と同調する魂が現れるのは、魔素の均衡が崩れゆく時しかない。過去に二度そのタイミングはあったが、我に同調する魂は稀であり揃うことは叶わなかった。故に我は力を半分使い、精神世界に彷徨う魂を探す事にした。……その魂が、其方だ」
な! では、私はこの世界に呼ばれて転生を果たしたと言うの!?
「その通りだ。転生者、いや、今の名はイザベルだったな。其方に、この世界を救う手助けをして欲しいのだ」
「世界を救う手助け? 待ってください、私は魔力も少ないのに、一体何を」
「力の大小ではない。其方の持つ魔力そのものに意味がある」
私の持つ魔力? あ! ラウルも言っていた、闇の魔力を増幅させる力のこと!?
「今まで我の力は闇の魔力を増幅させるためだけにしか使われてこなかったが、我の本来の力は闇の魔力、光の魔力、そのどちらも増幅させる作用がある」
「え!? で、でも、私の魔力は闇の魔力だって、リュカ先生もラウルも言っていたのに……」
「人間界では我の力は闇の魔力と映るらしいな。しかし、我の力の本質はそのどちらでもないのだ。さて、其方見つかった事により、今まで叶わなかった光の魔力の増幅が可能になる。……これで、ようやく女神の憂いを晴らす事が出来るかもしれん」
「女神の憂い?」
「そうだ。この世界の毒そのものを消し去ることだ」
魔素を消し去る!?
では、魔獣はこの世界からいなくなってしまうの?
それに、神様が出来なかったことを、本当に人が出来るの!?
「女神の力は、主に毒の除去と、除去の際に傷付いた組織の回復だ。魔獣達は本来の獣の姿に戻るだけで、いなくなったりはせん」
「嘘!? だって浄化の力は、魔獣を消滅させるために存在するって……」
「それは、人間が本来の力の使い方をせずに毒の排除のみに浄化の力を使ってきたのだろう」
そんな! 魔獣と人が共存出来る道があったのに、誤った力の使い方で魔獣が犠牲になっていたなんて!
「話を戻すぞ。そうだな……我々が毒を消し去れなかった理由を説明するか。この世界の創造後、すぐに毒を消し去る措置を取ったが、争いで傷付いた我は、傷の回復が間に合わず本来の力を発揮することが出来なかったのだ」
光の玉が放つ光がゆっくりと暗くなる。
その光は、己の力不足を悔いているように見えた。
「そして毒が残ったまま、生物が誕生してしまった。生物が誕生すると我々は直接力を使えない。我々の力は生物には適さぬ故、我々は同調する魂を宿したこの世界の住人を媒介し、力を調整する必要がある」
なるほど、創造神と似た魂の者に特殊魔力が宿るのは、そういう理由があったのね。
「話は何となく見えてきました。しかし、私は今ラウル……魔王に囚われていて、マリア様に会う事が出来ません。このままの状態では、私の力は闇の魔力の増幅のみに使われてしまうでしょう」
「闇の魔力を有する者は、毒の秩序を保つ事が使命故に、魔王もそれを果たそうとしているのだろう。よし、我が逃げ道を探し出し、其方を導こう」
光の玉はパンッと弾け、辺りにキラキラと輝く。
それと同時にグンッ何かに引き寄せられる感覚とともにハッと目を覚ました。
真っ先に目に飛び込んできたのは、着崩したシャツと男の胸板だ。
え? 何これ、どーゆー状況?
「ん、起きたか」
聞き覚えのある声とともに、モゾっと動いた腕にぎゅっと身体を抱き締められた。
ぎゃーー!! ちょ、ちょっと待て!?
「ラウル!?」
身体に絡んでいる腕をベリッと剥がし、慌てて上体を起こすと、隣にはシャツを着崩し、肩肘を突いたラウルが寝そべっていた。
「寝起き早々騒ぎ立てるな。そこで寝ているポチが起きるだろう」
「な、なななんで、ラウルが私と添い寝しているのですか!?」
「なんでって、ここは我の寝台なのだから、我が寝ている事に違和感などなかろう」
「そ、そうではなく、私達は確かピクニック中で……」
「お前は木陰で休んでいる最中にそのまま眠り込んでしまったんだ。譲っても起きないし、身体が冷えていたから転移魔法で寝室まで運んで添い寝して温めてやったんだ。我に感謝しろ」
「そ、そうだったのですね……」
良からぬ想像を働いていた私は、勘違いに思わず顔が赤くなるのを感じる。
ラウルはふっと笑うと、長い腕を伸ばして私の頬にそっと触れてきた。
「なんだ、それ以上の事をして欲しかったのか? イザベル」
「違います!!」
「パパ、イザベル、何してるの?」
この声は……
「ポポポポチ!? な、何でもないわ!」
「イザベルもパパとねんね? 僕もパパとねんねする!」
「駄目だ、お前はまだ手足を洗っていないだろう。それからだ」
ポチは耳と尻尾を垂れてきゅうんと寂しそうな声を出した。
「はい、パパ。わかった」
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