そうだ、ピクニックに行こう 中編
広い城内を抜け、城門を潜ると、目の前は一面緑が広がっている。
この辺りは本当に森に囲まれた場所なのね。
「ここから少し歩くと泉がある。距離もそこまで遠くないし景色も良いから、そこで飯を食うことにしよう。さ、行くぞ」
ん? 何か手が温かい……って、ちょっと待て。
さり気なくラウルが私の手を握っているんですけど。
「あの、ラウル」
「何だ」
「この手は何ですか」
「イザベルが迷子にならぬよう手を繋いでいる」
「もう! 私は幼児ではないのですから一人で大丈夫ですわ!」
ラウルはちょいちょい私を子供扱いするので、思わず手を払いむくれ顔になる。
「ふ、その顔面白いな」
「何ですって!?」
「まぁ、冗談はこのくらいにしておくか。イザベル、良く聞け。ここにいるのは魔の森だ。我と離れればお前の命はない。万が一の事態が起きぬよう手を繋いだまでだ。分かったらさっさと行くぞ」
うう、本来なら脱出ルートを探す予定だったのに。
でも、魔の森で迷子になって魔獣に襲われでもしたらひとたまりもないわ。
仕方ない、繋いだままにしておくか。
「パパとイザベル、仲良し!」
ポチは嬉しそうに尻尾を振りながらそう言うと先に進んでいく。
その様子を見たラウルはポチを呼び止めた。
「ポチ、あまり遠くへ行くと迷子になるぞ! 我のそばを離れるな!」
「はーい!」
和やかな雰囲気で森の中を進んで行く。
うーん、今日は本当にいい天気で気持ち良い。
それに、この辺りは起伏も少ないし歩き易くて良かったわ。
そんな事を思いながら気分良く歩いていると、先を行くポチが「パパー! イザベルー! 何かあるよ!」と騒ぎ出した。
「ポチが何か見つけた様だな」
「その様ですね」
ポチが止まっている場所まで行くとキラキラ光る果物のようなものがなった木が見えてきた。
「これは……?」
こんな果物初めて見たわ。
キラキラしているけど、これ、食べられるのかしら?
「イザベル、これは幻覚の実だ。魔の森に自生する植物で、この果物を魔獣意外の動物が食べると中毒症状で幻覚作用を引き起こす」
おっと、まさかの毒があったのね。
植物まで魔の森仕様になっているとは。
「パパ、これ食べたい!」
「ん、ああ。ポチは食っても良いぞ、今取ってやる」
ラウルは魔法を使い木から実を取ると、ポチに渡した。
「わーい! いただきまーす!」
そっか、ポチは見た目は子犬だけど一応魔獣だから食べても平気なのか。
そんな事を思いながらガツガツと果物を平らげるポチを眺めているとラウルが話しかけて来た。
「イザベルも食ってみたいのか?」
「い、いいえ!」
「物欲しそうな目でポチをみていたから腹でも減っているのかと思ったぞ。泉まではもうすぐだから我慢しろ」
確かに最初は食べられるのか気になったけど、私そこまで食い意地張ってないわよ!
「ラウル、私は一応公爵令嬢なんですからそこまで食い意地、もがっ」
「シッ! 静かに」
ラウルは急に険しい顔になり、私の口を手で覆った。
ちょ、ちょっと! レディの口をいきなり手で覆うなんて非常識過ぎるわ!!
何か言ってやろうとラウルの腕に手をかけた途端、ポチが「グルルル!」と何かに向かって威嚇をした。
え、まさか、近くに何かいるの?
「ポチ、我の近くに来い」
威嚇をしながらポチがラウルの側へ寄ると、ガサガサと藪が揺れた。
そして、中から鋭い鉤爪のついた熊の様な動物が姿を出した。
これ、きっと魔獣だよね?
「我に何の様だ」
「グルルル……にん、げん……」
「我もイザベルもお前達を束ねる立場。お前はそれを理解した上での行動か」
「にん、げん……くう……!」
えええ、ちょっと待って。
人間食うって、もしかして私を食べる気!?
どうしよう、とアワアワしている私を他所に、ラウルはため息を吐くと私の手を強く握った。
「ダメだ、先程から我の魔力を流しているが統率が出来ん。イザベル、悪いがお前の力を借りるぞ」
「え!? わ、私!?」
いきなり話振られても、私は一体どうしたらいいの!?
ただでさえ目の前に現れた魔獣でパニック状態なのに!
「落ち着け。ただ魔力を出すだけで良い。後は我が何とかする、発動方法は分かるだろう?」
「は、はい!」
「よし、では出してみろ」
えーっと、確か……内にある熱を意識して、身体を巡り、手から出す……!
「えいや!!」
「そうだ、それで良い」
うっ!? 身体の熱が吸い取られる!
急激な脱力感に見舞われながらも必死に魔力を出し続ける。
ラウルは反対の手を前へ翳すと辺りが一瞬黒い光りで覆われた。
わっ! 凄い!!
そうこうしている内に黒い光はパンッと弾け跡形もなく消えていった。
「さぁ、森へ帰れ」
ラウルが再び魔獣へ話しかける。
すると、目の前の魔獣は威嚇を止め、再び森へと帰って行った。
「イザベル、見ていただろう。これがお前が必要な理由だ」
なるほど、魔力の増大とは本当の事だったのね。目の前で見せつけられては、その話が嘘だとはもう言えないわ。
「……はい」
「さ、これでもう周囲の魔獣達は我に近寄らないから安心しろ。ポチ、もう先へ行っても大丈夫だが先に行き過ぎて迷子になるなよ」
「分かった!」
ポチはウォン! と元気良く鳴き、再び森の中へと進んで行った。
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