第三章 魔王編

連れ去られた場所は

 ん……


 頬にヒヤリとする何かが触れる。


 私は一体……


 重い瞼を開けると、白い天井と天蓋が視界に入る。

 アルノー家や学園寮の天井も白かったが、それらの場所とは違うようだ。

 辺りを見回すと、あれ? ベッド脇に知らない男が。


「起きたか」


 先程から頬に触れる冷たい感触は男の指先だった様だ。

 長い銀髪に燃えるような赤い瞳。

 そして、血の気のない真っ白な肌。

 美しい顔立ちだが、どこか生きた人間ではないような冷たさを感じる……そんな印象の男。


 この人、誰かしら。

 ってか、ここは一体何処なの?


 上体を起こし、辺りをよく見回す。

 小さいシャンデリアに重厚なカーテン。

 どこかのお城のような空間には、この大きなベッドとサイドテーブル以外は何もなく、どこか殺風景な印象を与えた。


「あの、ここは……?」


 私はさっきまでヘンリー殿下と共にいた筈だ。

 しかし、校門を出たところで真っ暗な闇に包まれ、そこからの記憶がない。


「ここは魔王城。我が城だ」


 まおうじょう? 

 まおう……魔王!? 

 ど、ど、どうしよう! 逃げなきゃ!!


 身に迫る危機から逃げようと、ガバッと掛けてある布団を剥ぎ、その男から離れようと身を捩った。

 しかし、男に腕を掴まれ、強く引き寄せらる。


「あっ!」

「いきなり立ち上がろうとするな。危ないだろう」

「嫌っ!! 離して!」


 掴んだ男の手を離そうと必死に腕に力を込めるも、ビクともしない。


「暴れるな、怪我をする」

「離して! だ、誰か!!」

「まずは落ち着け」


 魔王が反対側の手でスッと私の顔の前に手を置くと、ガクンッと身体の力が抜けた。

 なっ!? か、身体に力が入らない……!


「うっ! 何をしたの!?」

「このままではまともに話が出来ないのでな。悪いが、少々身体の自由を奪うことにした。危害を加えるつもりはないから安心しろ」

「はぁ!? 安心なんて出来るわけないでしょ! 貴方、魔王なんでしょ!? いきなり私を連れ去るなんて、一体何が目的なの!?」

「そう興奮するな。手荒な真似はしたくなかったが、そうでもしないとお前を手元に置けないのでな。小娘、いや、イザベルと言ったか。お前には、私の側でその力を使って欲しいのだ」

「は!? ち、力って」


 魔王は私の顎を掴み、グイッと顔を持ち上げた。

 赤い瞳がじっと私を見据える。


「お前のその魔力のことだ。我にその力を貸して欲しい」

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