第4話 妹の護衛騎士

 私の警戒をよそに、ティアラがこの城にきたところで、私の処遇は大して変わらなかった。


 元々、離れに隠されるように暮していたから。


 強いて言えば、両親の態度がよそよそしくなったくらいか?


 あのバカは私の事を視界に入れないようにしているし、母は複雑な心境ではあるようだが、私とティアラどちらかに肩入れしようとはしていない。


 これ以上の混乱を国にもたらしたくないと思っている気持ちが大きいのだろう。


 そう言えば、離れに運ばれてきていた食事に毒が混入され始めたから、それは捨てて部屋で食べることはやめた。


 誰が仕込んでいるのかは、わからない。


 ティアラに何かを吹き込まれた一派か、父親か。


 ティアラは必要な教育を受けながら、もうすでに自分の基盤を作るために動き出している。


 野心があるところは感心するよ。


 だから、ティアラから私の存在が漏れていてもおかしくはない。


 私の今は、王籍から抹消されて城に勤める騎士見習いのような立ち位置だ。


 さすがに不憫に思ってくれたのか、母の護衛騎士の協力のもと、身分を誤魔化して騎士達の訓練に参加している。


 だからついでで、兵舎で提供されている食事を食べるようになった。


 大鍋でぐつぐつ煮込まれたものを、その他大勢が食べるものだ。


 多分、安全だろう。多分。


 以前から剣の扱いには苦労していなかったから、見習い生活は順調だった。


 不思議と、小さな頃から剣には馴染みがあったからだ。


 誰かに教えを受けなくても、自然と戦い方を体が分かっているかのように動けた。


 それも、力のない者の戦い方を知っているように。


 男の体であっても、他の騎士や見習い達に比べて体格や腕力で劣るものがある。


 平均的な女性よりは背は高いが、騎士を目指す男性よりは低い。


 線も細い。


 見た目だけの第二次性徴期を経て、それは、どれどけ鍛えてもどうしょうもないものだ。


 中途半端に女である部分が影響しているのかは定かではない。


「おい、エリス。聞いているのか?」


 食堂で食事をしていると声をかけられたから、目の前に座っているものに視線を向けた。


「えーっと……誰だっけ?」


「ガブリエルだと、自己紹介したろ?」


 そうそう、目の前に座るこの男は、私よりも一歳年上の15才だと話していた、同じ騎士見習いだ。


 垂れ目がちで、女性受けしそうな顔をしており、実際に道行くお姉様によく声をかけられるのだと、先程を披露していたな。


「で、何?」


「配属先のことだ。俺はお前の事を結構気に入っているから、どうせなら同じ所がいいなって」


 何が気に入ったのか、私は別にガブリエルと仲良くしていた気はない。


 訓練を何度か一緒に受けていたというくらいで、こっちはさほど存在を意識していなかった。


 けど、ガブリエルが持ちかけてきた話題は気になった。


 見習い生活が一年経とうとしている今、どうせなら、街中の巡回とか、国境警備とか、城から離れた場所に勤務したい。


 どこに配属になるのかアレコレ考えを巡らせていると、


「エリスはいるか?至急、騎士団長の執務室へ来いとのことだ」


 どうやら、王からの呼び出しの方が先のようだった。


 騎士団長とは、つまり、母の護衛騎士の一人でもある。


 ガブリエルとはその場で別れて、言われた通りに騎士団長の執務室に行くと、そこには国王とティアラもいて、あの紹介された日以来の、久しぶりの対面となる。


 今度は何を言われるのかと思っていると、


「エリス。ティアラが、お前に護衛騎士となって欲しいと言っている。城での生活が不安なのだろう。希望を叶えてやってくれ」


 王の放った言葉に開いた口が塞がらなくなりそうだった。


 何、イカれたことを言っているんだ。


 私がティアラを斬り殺したらどうするつもりなんだ。


 もしくは見殺しにするとか。


「他の者に頼んでは如何ですか?オレは、護衛騎士としての訓練は受けていませんよ」


「もちろん、他の近衛騎士も護衛にあたる。だが、ティアラはお前に精神的に支えてもらいたいのだろう。突然不慣れな環境に連れてこられたのだ。言う通りにしてやってくれ」


 まず、真っ先にこの王を斬り殺したかった。


 お前が都合が悪いからとティアラを国外に追いやっておいて、何を言っているんだか。


 結局、拒否権なんかあるわけもなく、私は妹の名ばかりの護衛騎士となるしかなかった。


 ティアラは私を従者のように連れ回し、自分が色んな人から傅かれているのを見せつけてくる。


 そして常に愉悦を浮かべた微笑みで、私を見ている。


 突然その存在が公にされたティアラだったが、黙っていれば儚げなその容姿は、会うものを虜にしていった。


 そしてそれを当然とばかりに受け入れている。


 いい性格だった。


 あの愚王にして、この娘だ。


 いい女王になるだろう。


 国は安泰だ。


 もちろん、嫌味のつもりで言っているが。











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