第22話 先祖と神楽

「さむッ! 邪馬斗! 早く終わらてよ!」

「お前なぁ~。お前に頼まれて手伝っているってのに……。今日の掃除は本来、お前が当番なんだからな」

「だって寒いんだもん! 早く終わらせたいじゃん!」


 雪が降る中、天音と邪馬斗は神社の掃除をしていた。

 今日は巫山家の担当日なのだが、あまりの寒さに早く終わらせたい一心で、天音は邪馬斗に泣きついて、神社の掃除を一緒にやってもらうことにしたのだ。

 しかも天音は邪馬斗に指示を出すばかりで、自分は日当たりの良いところでじっとしている。


「あとは、本殿の中の掃除をやれば終わりだね! 邪馬斗、ファイトー!」

「お前もやるんだよ!」

「分かってるって~。お礼にクッキー作ってきてあげてるから、終わったら一緒に食べよーよ!」

「お前、どこまで俺のことを苦しめる気なんだよ……。貴重な休日返せよ!」

「今日のクッキーは美味しくできたから大丈夫だよ! おばあちゃんも美味しいって言って食べてたもん!」

「巫山のばあちゃんが言うのであれば安心したわ。クッキー楽しみだな~」


 邪馬斗は少し安心しながら、本殿の扉を開けた。


「ちょっとは信頼してよー! もう何度も作ってるんだから」

「はいはい、信頼してるしてる。ある意味、な」


 二人は言い合いながら本堂の中へ入る。


「ん? あれっ?」

「どうしたの? 邪馬斗」

「もう直ったんじゃね? 神鏡」

「嘘!?」


 神鏡を見ると、ほぼ元の姿を取り戻している。


「すごい! こんなに破片集まったんだね! でも、あと一つじゃない? ほらここ。欠けてるよ?」


 天音に言われ、邪馬斗は目を細めながら神鏡をよく見た。


「……あぁ、確かに欠けてるな。もしかして、この欠けている所の破片が戻れば、今度こそ神鏡が元通りになりそうだな」

「あと一息だね!」

「そうだな」

「さ、掃除さっさと終わらせよー!」


 天音と邪馬斗は本堂の掃除を始めた。


「掃き掃除は良しと……。邪馬斗! ちりとり貸してー」

「こっちのゴミ取ったらやるから、ちょっと待ってて!」

「早く! 早くー!」

「テンション上がるのも分かるが、そう焦らせるなよ!」


 天音はダンスを踊りながら、邪馬斗がちりとりを持ってくるのを待っていた。


「ふ~ん、ふふ~ん、ふ~ん……」

 箒を使い、鼻歌を歌いながら華麗なステップにターンを決める天音。

 ターンを決めてポーズを決めたその時。

 本堂の入り口に、羽織姿の女性が立っているのが目に入った。


「きゃーーー!!!」


 思わず悲鳴をあげる天音。

 邪馬斗が慌てて駆け寄ってきた。


「どうした!?」

「入り口に……女の人が……」


 天音は女性を指差して言った。

 邪馬斗が見ると、女性はにっこりと微笑む。


「……霊だな」


 邪馬斗は驚きつつも、冷静に言う。

 女性の霊はゆっくりと頷いて応えた。


「えっと……。どちら様ですか?」


 怯えながら、天音が女性の霊に尋ねる。


「……巫。私の名はカンナギと申します」

「……カン……ナギ?」


 女性の霊の名前を聞いた天音は、言葉に詰まりながら言った。


「そうです。あなた達の先祖と言えば良いでしょうか」

「俺達の先祖だと……」


 邪馬斗は唖然としながら言った。


「そうです」

「カンナギって、この神社と同じ名前じゃん!」


 女性の名前と神社の名前が、一致していることに気づく。

 カンナギは笑いながら、天音と邪馬斗に話し掛けた。


「今まであなた達が魂送りをしてきたのをずっと見てきました。良くくじけずにここまでやってきましたね。あなた達に話したいことがあって参りました」

「話したいこと?」


 天音が言うと、カンナギはゆっくりと頷く。


「はい。あなた達は魂送りをするたびに、私の力に近づいて来ています。そして、ご覧の通り、神鏡はあと破片を一つ集めれば元通りに戻ることができます。私を魂送りすれば……」

「そうなんですか!?」


 邪馬斗は驚いてカンナギを見つめる。


「その前に、少し話があります」


 カンナギはそう言って、本堂の中に入って正座した。

 天音と邪馬斗も、カンナギの前で居住まいを正す。


「その前に、聞きたいことがあります!」


 邪馬斗ははっきりとした声で言った。


「カンナギさん、もしかして学校で男の人に憑いていませんでしたか?」


 天音と邪馬斗は、真剣な目でカンナギを見つめて言った。

 それを聞き、カンナギは首を横に振る。


「残念ながら、それは私ではありません。私の力でも、あの方の正体は分かりませんでした。ですが、悪い霊気は感じませんでしたので、危害を与える霊ではございません。むしろ、全てを包み込むような優しさの波動を感じました」

「そうなんですか……。それなら良かった」


 天音と邪馬斗は、ほっと息を吐いた。


「あと、カンナギさん。私と邪馬斗の先祖って言ってましたよね? 巫山家と巫川家って、別々の家ではないのですか?」


 天音は不思議そうに言った。


「そうですね……。まずそのことからお教えしましょう」


 カンナギはそう言って、語り始めた。

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