第1話 アマゾニス
俺が田中一郎として生を受けてから35年経ったある日。
ふと、自分の人生というモノを振り返った。
俺には5歳上の兄貴がいる。
兄貴は20歳のときに結婚して現在15歳になる息子がいる。
それに比べて俺は彼女はいたことはあるが結婚にいたる前に別れている。
あっという間に35歳になっていた。
鏡を見ると顔つきが親父に似ていると感じたり、周りの若い連中が大きく見えたりするようになった。
人生をやり直したいと思うほどツラくもなかったし、楽でもなかったが、これで良いのかな? と帰りの電車の中で思ったりする。
今日もそんな風に一人帰宅していたら、知らない場所にいた。
降りる駅を間違えたとかそういう話ではない。
コンクリートの道は無く、電柱の代わりに木がたくさん生えているではないか、住宅街の家もない、辺り一面、葉と木ばかりだ。
知らない虫が足元を這っていく。
ギャーという怪鳥の鳴き声がする。
こんなところに背広姿の男はあまりにも不釣り合いだった。
「一体、何が起こったんだ?」
思わず声が出た。
声に出して夢か現実なのか確認したかった。
自分の声が頭に響いた。これは夢ではない。
俺はしかたなく歩いた。
左右をキョロキョロしながら歩くも葉と木しかなく、しかも、それが日本に生息しているものなのか怪しいものばかりだった。
「テレビの海外ロケ番組でこういうところ見た事あるけど……」
俺は不安になりながら鞄を抱えた。
鞄を守るためではなく、自分の心細さを和らげるため。
子どもがぬいぐるみを抱きしめるように抱いた。
ザーという音が聞こえてきた。
どうやら川に近づいているらしい。
よく遭難したら川をまず探すとかあるが、会社からの帰宅途中だから合ってるのかわからないがとにかく川を見つけた。
川へ行くと人がいた。
いや、人にしては大きい?
熊か? いや、あの形は人だ。2メートルの人だ。
人が川で暴れている。いや、魚を捕まえているんだ。
両手にピチピチと動く魚を掲げるように捕まえている。
俺はその光景がどこか神々しくて見惚れていた。
俺に気付いたのか魚をカゴの中に入れると、川の水流を気にすることなく近づいてきた。
2メートルの人は女性だった。
俺より30センチは高い。いや、もっとあるだろう。
全体の身体の大きさも俺の倍はある。筋肉で引き締められてまるで戦士だ。
ワンピースの腰にベルトを巻きつけロープやらナイフが付けられていた。
一体、どこの人だろう。そもそも言葉をなんとかしないと。
女性は何やら言ってはいるがやはりわかるわけもない。
俺も何かいい方法は無いかと鞄からペンと紙を出そうとしたときだ。
「あなたはどこの人ですか?」
言葉が聞こえた。
さっきまで謎の音にしか聞こえなかったものが言葉としてわかる。
「俺は日本の東京から来た」
普段通りしゃべってみた。
「にほん……とうきょう?」
言葉は通じるがどうやら日本でも東京でもないらしいことはわかった。
「ここはどこなんですか?」
「ジャングル」
「いや、ジャングルは見ればわかるんだ。その国とか」
「アマゾニス」
「アマゾニス?」
アマゾンやアマゾネスならわかるがアマゾニスって?
「迷子なんですね。よければ村に案内します」
「あ、うん。ありがとう」
丁寧な人だ。
「そういえば名前を聞いていなかったね。俺は田中一郎」
「私はアマンダ」
村に着くまでの間、俺は自分の身に起きたことを話した。
すると、彼女は何か心当たりがあるらしく、村の長老に聞いてみましょうと言ってくれた。
村に着くと女性ばかりだった。
アマンダより少し低いがやはりみんな背が2メートルはあった。
俺は不思議の国のアリスやガリバー旅行記を思い出した。
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