第8話

「さっきも言ったけれど、結奈は助かる。病気だって治る」

「……六花が何かするの?」

「私は死神だよ? そのくらいのことは出来るよ」


 おかしい。何がおかしいかはわからないが、何もかもがおかしい。

 六花の表情は穏やかだ。本当になんでもない世間話をしているかのように。それが返って不気味だった。


「……具体的には何をするの?」

「私の魂を分け与える。それで結奈は寿命を取り戻せる」

「魂を分け与えるって……」


 そんなことが可能なのか? でもそんなことが簡単に出来るのであれば、ここまで六花が引っ張った理由が思い当たらない。きっと何か――


「代償は? そんなこと簡単にできるとは思えない」


 六花の肩がびくりと震えた。


「そんなもの必要ない。結奈の病気は治って、ハッピーエンド。それだけだよ」


 六花の顔はまるで能面を張り付けたかのように頑なだった。何かを隠しているのは明白だった。


「六花、本当のことを言ってほしい。本当に何も代償はないの? 僕にはとてもそうとは思えない」


 僕はまっすぐに強く六花の目を見つめる。六花の目に動揺が浮かんだ。

 そうして数秒間睨めっこしていると、六花は深く溜息をついた。


「……代償は私の魂。私は消えて、結奈は寿命を取り戻す。私の魂は完全に消失し、私は忘れられ、元から存在しなかったことになる。それが代償。――ね? 大したことないでしょ?」

「なっ……」


 想像よりもなお重い話に、思わずたじろぐ。

 だが六花はそんな僕の反応は置いてきぼりにして話を進めていく。


「死神なんていなくなったところで何かが起こるわけじゃない。啓ちゃんはなぜか私のことが見えるようだけど、その啓ちゃんは私のことを忘れる。ほら、何の問題もないでしょ?」

「問題ないわけ「結奈を助けたくないの?」」


 あるか! と言おうとしたところに六花の言葉が差し込まれた。そして僕は何も言い返せずに黙るしかなかった。

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