【ゴスリリ】オデットとエイシス
作者の人がTwitterで募集した、
#うちの子でみてみたい組み合わせをリプでくれたらそいつら絡ませる
というリクエストできた、「オデット(形代くるみ)」と「エイシス(妛原閠)」のショートショートです。
《エンズビル・オンライン》は老舗のMMORPGだ。
それはつまり、今もそれなりのプレイヤーはいるけれど、全盛期ほどの賑わいはない、そんな半端な環境でもあるということだ。
新規にプレイを始める新人の姿はあまり見られないし、いたとしても長続きするかどうかは、賭けた方が分が悪い。
古参のプレイヤーも環境の変化や、単純な飽き、別なゲームを始めるなど、引退したものは多い。いつか見たプレイヤーが、いつの間にか姿を見せなくなるのは、今となってはよくあることだ。
残っている者たちも、以前ほど精力的じゃない。
プレイヤーが露店を開いてはアイテムを売り買いしていた大通りは、一時期のように露店ウィンドウで埋め尽くされるようなこともない。どこをクリックしても何かの露店に引っかかると言われた混雑具合も、今はそれぞれの露店がほとんど定位置になった縄張りに整然と開かれているくらいだ。
毎週末行われているGvG、つまりギルド対抗戦も、何かのイベントでもなければ人数が集まらず、パーティ単位のPvPと大差ない具合だ。ひと時などはサーバー負荷のために、人数制限さえあったというのに、遅まきながらサーバー増設した頃には人はもう集まらなくなっていた。
それでも、寂れているとは言えない程度にプレイヤーたちがすれ違うし、定期的なイベントや、時々のキャンペーン時にはログイン率もぐっと上がる。
今もそうだった。
ほとんど常設になってしまって、もはや何度目かもわからない新規プレイヤー歓迎キャンペーンとやらのために、広告につられてやってきた冷やかしまがいの新人や、キャンペーン限定のアイテム欲しさにサブ・アカウントを作った古参連中のキャラクターがうろついていた。
私も、キャンペーン・イベントの内容を知るためにサブ・アカウントを作ろうかとも思ったけれど、最大レベルのキャラクターでゴリ押しプレイをしている身には、今更せこせこと低レベル帯をうろつく気力はなかった。
どうせ少しもしないうちに、プレイ動画やイベントの概要はネットの海に散らばることになる。そしてそれらはいままで何度となく行われてきたキャンペーンとさほど変わらないだろう。
画面の中で、デフォルメされたキャラクターが動き回る中、半透明に描写されているのが私の持ちキャラクターであるエイシスだ。《
誰にも絡まれず、人様のプレイを眺めながらぶらつく、それが私という人間のプレイ・スタイルだった。
既存プレイヤーでも参加できるイベントを一通りこなしてしまった私は、適当に定めたプレイヤーの後を付け回してプレイングを観察するという悪趣味な日課に励んでいたのだが、この日は早々に切り上げてしまった。
というのも、多くのプレイヤーがキャンペーン・イベント巡りをしているわけで、大体誰を選んでも同じようなプレイを見せられることになったからだ。さすがに飽きた。
もはやガイド・ツアーさえ可能なほどに習熟してしまったではないか。
結局、暇つぶしに足を運んだのは、プレイヤーの最初の拠点となる――そして最もプレイヤーが多くみられる《王都ハルアルファ》、その大通りに面した中央広場だった。
中央広場はよく開けており、転移先として登録されるため、プレイヤーたちの待ち合わせや交流の場所としてよく用いられている。
見渡せば露店を開くものや、パーティ・メンバーを募集するもの、チャットでだべっているのかひとところに集まって動かない一団など、様々なプレイヤーが様々な理由でひしめいていた。
そしてその広場の中心辺りにあるステージを取り囲むように、デフォルメされたキャラクターがみっしりと押しかけて場所を取り合っていた。
私もその群衆の間に紛れ込み、腰を落ち着ける。
安物のヘッドフォンを取り出してあてがえば、途端に流れ出すのは、ゲームのBGMではない、アップテンポなメロディと、甘やかで伸びのある声。
ステージ上にただ一人立っているのは、デフォルメされた中でも特に小柄な少女の姿。わずかに地から浮き、背からのびる透き通った羽で飛ぶ姿は、ピクシー種の特徴だ。
彼女を中心に画面を彩る華やかできらびやかなエフェクトの数々は、《
彼女はオデット。ピクシーの《
そして誉れ低き畏怖とドン引きの対象たる《
自称「アイドル特化」であるオデットのキャラ育成は、私のエイシスの
オデットの種族であるピクシーは、
そのため専ら魔法支援職として後方支援する形が多い。
《
その最上位職である《
覚えられる《
以前私も見せてもらったことがあるのだけれど、オデットの《
たまに実用的なものもあると思えば、お目当ての
それだけなら単なるキャラクター・クリエイトの失敗見本でしかないけど、それを「『できるかな』を実際にやっちゃった事例」、「時間の費やし方を誰からも教えてもらえなかった悲劇」、「失敗しそこなった大失敗」、「これそう言うゲームじゃねえから」と嘆かれる《
当初、辻バフ、つまり通りすがりの他のプレイヤーに
歌って踊ってバフするアイドルとして活動を開始した。
動画チャンネルに対する投げ銭は金額をすべて公表し、ゲーム内課金に全額使用。
課金装備やガチャで着々と強化されていき、
《
最大レベルの《
いまや彼女の別アカウントの《
本来なら緊急時でも出し惜しみするような高額課金アイテムを出し惜しみなく使用しての
そういった
なんでアイドルに興味のない私がそこまで詳しいかと言えば、聞いてもいないのに本人が教えてくれたからだ。
ライブが終わって人が散り始めたので、私もそろそろログアウトしようかと思っていると、チャット・ウィンドウがポップし、ボイス・チャットの申請が来る。許可すると、先程まで甘やかに歌っていた声がヘッドフォンから流れ出した。
『エイシス、観に来てくれたんだねー』
【なんでわかった?】
『一人分だけぽっかり空いてたら、姿隠してもわかるって』
《
私がかたかたとキーボードを叩いて応じたので、オデットはよくもまあ舌をかまないなという早口でまくしたて始める。今日のライブの感想だとか、観客がどうだったかとか、課金額が横ばい気味だとか、まあ、いろいろ。
別にオデットは私にすべてを聞かせるつもりはないし、私もすべてを聞く気はない。
要所要所をとらえてもらえればそれでいい、そこだけは強調しておく、というそう言う具合で、ほとんどはオデット本人が好き勝手なことを言っているだけだ。
そしてそれは私が不快に感じない程度の賑やかしになっており、私がなんとなく駄弁りに付き合ってやろうと思う程度の話題だ。
《エンズビル・オンライン》のライブアイドルにして、ギルド《
オデットが異色の存在であるのは確かだけど、彼女が《
聞けば応えてくれるとは思うけど、たぶん実際のところはそんなに面白くもないエピソードが帰ってきそうなので、夢のある現状で維持していきたい。
ほとんど聞き専に徹している私が、なんでまたお喋りなオデットのチャット相手に選ばれたかと言えば、たまたま見つけたからと、そしていいサンドバッグになるからだ。
サンドバッグと言うと語弊があるか。私が余計なことを言わずに相槌だけ打ってくれる、そして文句も言わない、そして誰にも口外しない、そう言う都合のいい相手だからだ。
そんなサンドバッグ扱いをされながらもなぜ私がこのお喋りに付き合っているかと言えば、声がいいからだ。
もう一度言う。
声がいいからだ。
普段、実況動画とかは声が合わなくて観ないのだけれど、オデットの声は、実にいいのだ。甘やかで、張りがあり、伸びがある。そのくせ、キンキンと響くわけでもない。割と作った声であるらしく、たまに地声っぽいちょっと低い声が混じる時もあるけど、それもまたいい声なのだ。
ぶっちゃけ、私が《
『幻の
ヘッドフォンから流れる甘い声を聴き流しつつ、私は寝落ちしそうな旨をタイプするのだった。
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